更新日:2023年05月24日 15:36
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自衛隊をコロナ対策で「成田派遣」すべきではない理由

その84 新型コロナウイルスと成田災害派遣

自衛隊が担う成田空港におけるミッションとは?

 3月28日、防衛省は自衛隊の成田空港への災害派遣を決定しました。  新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、4月3日から「水際対策強化に係る新たな措置」が実施されることになりました。「帰国者への検疫やPCR検査」、「帰国待機施設への輸送業務」、「待機者への生活支援」を行う予定です。自衛隊の医療スタッフ、衛生科隊員等が「検査検疫業務」を、普通科や輸送科の自衛隊員が「輸送業務と待機者生活支援」を担当します。  つまり、海外から帰ってきた人たちの健康チェックを行い、PCR検査の検体を取って帰国者を待機施設に輸送することになります。このために駐屯地や自衛隊病院から自衛官が派遣されます。検疫の仕事は厚生労働省がやるものです。なぜ、自衛隊が自主災害派遣で検疫や送迎に出向くのか? とても不思議です。  成田空港には厚生労働省の成田空港検疫所というものがあり、常在機関として存在しています。なぜ遠方からはるばる自衛隊を呼ぶのでしょう? 厚生労働省も職員を減らしすぎ、検疫職員が足らないのでしょうか? 新型インフルエンザの経験を踏まえ、いざというときのために必要な余剰人員を抱えていなければ、危機対応が簡単に破綻します。合理化や無駄減らしは非常時のリスクを高めます。つまり、予算ケチりすぎだからですよ。  そもそも、自衛隊の災害派遣は以下の3条件を満たしている必要があります。 ①公共の秩序を維持するため、人命または財産を社会的に保護しなければならない必要性がある ②差し迫った必要性があること ③自衛隊の部隊が派遣される以外に他の適切な手段がない  日本中にはたくさんの医師や看護師、薬剤師がいます。今回のケースは自衛隊以外でも対処可能であり、非代替性はないと考えられます。自衛隊以外でもできる仕事を安易に自衛隊にさせることは大問題です。当然のことながら自衛隊は国防という重大な任務を負っており、自衛隊以外に国を守ることができる組織はありません。感染症対策は自衛官でなくてもできます。この災害派遣により、自衛隊が本来やらなければならない警戒業務や訓練の時間や回数が減ることになります。そして、その分だけ自衛隊の練度や防衛能力が損なわれます。  なぜ、わざわざ遠方から自衛官を派遣して「帰国者をホテルに送り迎えする」というような仕事をさせるのでしょうか? はなはだ疑問です。送迎くらい自衛官でなくともできるでしょ? 防衛省は「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の指定省庁に入っています。だからといって、自衛隊を「便利屋」扱いする行為は「国防の軽視では?」と疑ってしまいます。

成田空港対応の「防護基準」

 さて、自衛隊員の防護基準は「ダイヤモンドプリンセス号」対処のときと同等以上の高レベルとなっています。任務中はタイベック防護服とマスク、アイシールドの上にフェイスガードをつける防護基準が適用されるようです。この高レベルの装備基準は評価されますが、自衛隊の備品はそもそも防衛のためのものなので、使った分は必ず国庫から補充してもらいたいものです。テロなどの緊急時に備蓄がなく対応できないなどというのは本末転倒です。  先日、自衛隊は2009年の新型インフルエンザ時の備蓄マスクを民間に放出しましたが、これは使用期限の切れた廃棄前の在庫一掃処分だったようです。期限の切れたマスクでも、医療機関であればチェックしながら消毒をして使うことができるので、使用可能な機関に譲ったということでした(その後の災害派遣対処には充分調達が間に合ったと聞いています)。  基本的に、感染症防護具は頻繁に着脱して廃棄しなくてはなりません。感染が疑われる人物と面会した後に防護具を変えずに次の人に対応すれば、防護具を通して感染を拡大させる怖れがあります。もったいないですが、着替える必要があります。万全な感染予防のためには、防護服、マスク、アイシールド等はいくらあっても足りません。タイベック防護服、アイシールド、フェイスガードなどが十分に調達されているかどうかは心配です。
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医療従事者ではない自衛官も「成田派遣」される
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おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot


自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う

日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる……


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