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自衛隊「4月問題」が改善――隊員家族を苦しめる「引っ越しビンボー」という宿痾

その81 幹部自衛官の引越し代自腹問題

一般のサラリーマンとあまりに違う自衛隊の人事異動

陸上自衛隊

陸上自衛隊公式Twitterより

 幹部自衛官には頻繁に全国異動があります。しかも、普通の人ならまず行かない国境の島やレーダーサイトなどの人里離れた場所も自衛隊の勤務地です。南の孤島「硫黄島」にも自衛隊の基地があります。当然、引越しの範囲は途方もなく広く、引越し代がバカになりません。しかも、自衛隊幹部の場合、異動の頻度は2~3年に一度です。  これは、同じ勤務地にじっくり腰を据えて職域を知り尽くすより、日本全域で多種多様な職域を経験させて「浅く広く知る」人材を幹部にしたいという考え方によるものだそうです。どちらの人材育成法も一長一短があると思いますが、我が国では一般的に国家公務員は短期で異動を繰り返します。企業も昔は頻繁に人事異動していましたが、最近は経費削減や採用形態の変化により異動の頻度は減っているようです。  では、予算が少ない自衛隊はその引越し費用をしっかり手当てしているのでしょうか。 そこは、さまざまな予算を削りに削っている自衛隊です。やはり、自衛官に自腹で経費を負担させていました。自衛隊では赴任にかかる引越し費用は実費支給ではなく、内部基準による最低限の額しか支給しないため、実際にかかった費用の差額は自衛官個人が負担していたのです。  ある自衛官の奥様は「異動のたびに、老後の蓄えにと自分もパートに出て貯めた預貯金を取り崩さないといけないことがツライ」と嘆いていました。関東から北海道の引っ越しで数十万円の自腹を切ったとぼやいていた自衛官もいました。度重なる引越し費用で家計が耐えられなくなり退官した自衛官もいます。毎回の引越し代自腹負担がどう考えても納得できず、また奥さんもせっかく慣れた仕事を数年ごとに辞めなければいけない不安定さと理不尽に耐えられなかったそうです。

鈴木貴子・元防衛大臣政務官が「脱引っ越し貧乏!」と快哉叫ぶ

 自衛隊家族が「引越しビンボー」を甘んじて受け入れなければならない要因は、自衛隊の構造的な問題が根底にあります。自衛隊員の異動も4月に辞令が出ますが、幹部自衛官の異動先は辞令が出るまで確定しません。ぎりぎりまで動くに動けないため、事前に家族が引越しの準備をすることができない場合も多々あり、子供の始業式に間に合わなかったり、転校先の学校の制服や体操服、笛などの道具類を事前に揃えることができなかったりすることもあるそうです。転校先の小学校で自分だけみんなと道具類が違ったりするのは子供には辛いですよね。転勤の多い自衛官の子供たちにはそういった苦労がずっとあったはずです。  仲良しグループができてしまった後の新学期の転校は子供にはキツイことです。できれば新学期に入る前に引越しを終え、学校の必要な備品を買い揃える時間もほしいことでしょう。  そもそも、ほかの国家公務員たちの異動とそれに伴う引越しも、春先の同じ時期にあります。学生や新卒社会人も含めて全国で一斉に引越しが行われる春は、引越し業者の繁忙期であり、当然、料金も最高額になります。さらに、業者の都合がつかなければ、異動日までの引越しが不可能になる場合もあります。落ち着くまでは新しい職場で寝袋を使って寝泊まりする自衛官もいると聞きました。  ここで、元防衛大臣政務官であり、自衛官の官舎問題に取り組んでいる鈴木貴子衆議院議員のTwitterを見てください。 <政務官時代から取り組んできた、自衛官の引っ越し費用問題ですが「実費支給」に変えることができました。対象は夏異動からですが、その分、この春は時期をずらした“分散異動”で繁忙期対策。例えば陸ですと、例年春の異動が全体の半数以上でしたが、今年はわずか2%に。脱引っ越し貧乏!万歳実費!>  まさに万歳です。  これで、一番高くて手配の難しい時期の引越しを避けることができますし、この夏の異動からは引越し費用の全額を実費で国が賄うと決まりました。そりゃそうでしょうね。これは当たり前のことだろうって思いませんか? 異動のたびに職場が個人に自腹を切らせるようなことがあっていいものでしょうか。  数年に一度の頻度で起きる幹部自衛官の引越し代自腹問題は、ぜひとも改善してほしかった問題の一つであり、請願のたびに国会議員の先生方に変えてほしいとお願いしてきました。その声がこうして実際の制度改正に繋がったことは本当に嬉しい限りです。
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高くてボロいうえ退去時には「大金」を要求される!?
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