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安倍政権から始まったデータ改ざんの深刻度<弁護士・明石順平>

―[月刊日本]―

毎月勤労統計不正よりも深刻

改ざん

写真はイメージです

―― 国交省が建設業の受注実態をあらわす基幹統計の調査にあたって、建設業者から提出されたデータを改ざんしていたことが明らかになりました。2018年にも毎月勤労統計をめぐる不正が発覚しましたが、日本では統計があまりにも軽視されているように感じます。明石さんは『国家の統計破壊』(インターナショナル新書)で、毎月勤労統計の不正を厳しく追及していますが、新たに発覚した統計不正についてはどのように見ていますか。 明石 毎月勤労統計の不正と同じく、統計を改ざんすることで実態よりも良く見せようとしていたのだと思います。しかし、今回の改ざんのほうがより深刻です。  まず毎月勤労統計の不正を振り返ると、厚労省は毎月勤労統計調査に際して、東京都の500人以上の事業所は全数調査することになっていましたが、1400ある該当事業所のうち約3分の1しか調査していませんでした。  この不正は2004年から行われており、厚労省の職員たちはもはや不正という認識さえなくなっていたのだと思います。  もっとも、たとえ3分の1の事業所しか調査していなかったとしても、3倍にして復元すれば、実態とそれほど乖離することはありません。しかし、厚労省はずっと復元操作をしていませんでした。  ところが、厚労省は突然方針転換し、2018年からこっそり復元操作を行うようになりました。そのため、2018年の名目賃金伸び率が急上昇するという異常な結果になったのです。  他方、国交省の統計改ざんでは、役人たちは建設業者から提出された受注実績のデータを消しゴムで消し、数字を変えていました。厚労省の不正の場合は、毎月勤労統計をまとめる過程でインチキが行われましたが、データそのものが改ざんされたわけではありません。データさえ残っていれば、改めて計算し直すことで、統計を正すこともできます。しかし、国交省はデータ自体を改ざんしており、もとのデータがわからなくなっているので、統計を正すことは不可能です。これが一番の問題です。  日本政府はこれによるGDPへの影響は軽微だと言っていますが、もとのデータを消してしまったわけですから、軽微かどうか判断しようがないはずです。実際にどれくらいGDPへの影響があるかは、今年のGDPが出たときに初めて明らかになるでしょう。

目的はGDPのかさ上げか

―― 国交省の役人たちが基幹統計の改ざんに手を染めた理由は何だと思いますか。 明石 官僚たちにはデータを改ざんする動機がありません。建設業の受注実績が良かろうが悪かろうが、彼らには直接的には関係ないからです。そこから考えると、政権の意向が働いていた可能性があります。  厚労省が毎月勤労統計に手をつけた際も、その背後に政権の意向が見え隠れしていました。先ほど述べたように、毎月勤労統計の不正は2004年から行われていましたが、復元操作が始まったのは2018年からでした。これは安倍政権の時代です。このころ安倍総理は経済界に対して3%の賃上げを求めていたので、その目標を達成したと見せかけるために改ざんしたのではないかと思います。  安倍政権は2016年にはGDPの算出方法にまで手をつけています。これによってGDPは大幅にかさ上げされました。改定前の2015年度の名目GDPは、ピークだった1997年度と20・7兆円も差がありましたが、改定後はその差はわずか0・9兆円にまで縮まりました。  算出方法がどのように変更されたかと言うと、まず実質GDPの基準年が平成17年(2005)から平成23年に変更されました。また、それまではGDPの算出は「1993SNA」という基準に準拠していましたが、「2008SNA」に変更されました。SNAとは国際的なGDP算出基準のことです。「2008SNA」では研究開発費などが上乗せされるので、名目GDPはおおよそ20兆円ほどかさ上げされました。  しかし、これよりも重大な問題があります。内閣府はGDPが増額した要因を発表していますが、そこには「2008年SNA」とは別に「その他」という項目がありました。この「その他」のかさ上げ額が非常に不自然だったのです。  アベノミクス以降の「その他」のかさ上げ額を見ると、平均でプラス約5・6兆円でした。これに対して、1990年代の「その他」はすべてマイナスで、平均するとマイナス約3・8兆円でした。つまり、アベノミクス以降、「その他」は大幅にかさ上げされ、1990年代は大きくかさ「下げ」されていたのです。だからこそ2015年度の名目GDPが1997年度に迫ることができたのです。  このころ安倍総理は2020年を目途に名目GDP600兆円を達成すると言っていました。これに合わせてGDPの算出方法が変更された可能性があります。  国交省がデータの改ざんを始めたのも、安倍政権になってからだと報じられています。これもGDPのかさ上げが目的でしょう。国交省は2019年に会計検査院から不正を指摘され、それまで国の指示を受けて改ざんを行っていた都道府県の職員たちに中止するように命じますが、その後は国交省の職員が自ら改ざんを行っていました。改ざんをやめてしまえば、GDPがガクッと落ちてしまう恐れがあったからだと思います。
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改ざんを「書き換え」と報じるメディアのおかしさ
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げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

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月刊日本2022年2月号

【特集1】天皇危うし! 存続の危機に立つ皇室
【特集2】統計の改ざんは国家による犯罪だ

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