エンタメ

鳥飼茜『ロマンス暴風域』で描いた男への反発「風俗に行けば純愛できるなんて」

―[ロマンス暴風域]―
 漫画『ロマンス暴風域』が実写化を果たし、MBS/TBSドラマイズムにてドラマ放送がスタートした。冴えない人生を送るアラサー非モテ男子・佐藤民生が、気分転換に行った風俗で出会ったせりかに、お金や肩書など関係ない“運命の出会い”を感じ、真実の愛を探して彷徨う。原作は、男女間の価値観や性を残酷なほど克明に描く漫画家・鳥飼茜氏。「風俗は肯定しきれない」というなかで、どのように本作を描き切ったのだろうか。
漫画『ロマンス暴風域』原作者・鳥飼茜

漫画『ロマンス暴風域』原作者・鳥飼茜

――ドラマ化決定を聞いたときの率直な感想を教えてください。  今回のドラマ化は、急に決まったんですよ。通常は随分前から話があって、長いと2~3年かかってやっと決定したり、やっぱりダメでしたとなったり。心待ちにして叶ったというものではなかったので、棚からぼたもちでした。 ――ドラマ化するにあたり、原作者として制作へのリクエストはされましたか?  私が『ロマンス暴風域』を描くときに考えていたのが、風俗の世界という一般的に賛否両論ある場所なので、読者が偏ったイメージを持って誰かを圧迫するようなことがないようにしたいということ。だから、ドラマでも「いろんな見方があって、こんな人物もいるかもしれないよね」という一つの可能性みたいに作ってもらえたらいいなって。  そう心の中で思っただけで、企画書に添付されていたプロットが面白かったので、直接は言ってないです。その後送られてきた脚本もすごく読みやすくて。純愛とかの押しつけではなく、良くも悪くも現実世界で、私が描きたい路線だったので嬉しかったです。あと、役者さんの希望もいいました。企画書に候補がいて、その人以外にこういう人がいいって。好きな俳優さんだったら最高だなって(笑) ――『ロマンス暴風域』は2017~2018年に連載していた作品です。時間が経過して、発見や印象が変化したことはありますか?    ドラマ化にあたって読み返したんですが、いま連載中の『サターンリターン』(小学館)が自分の意欲作で、その根源になっているように感じました。SPA!連載時は、何でもいいよという感じで、コピックを使って描いたり、絵柄にしても企画にしても普通の漫画誌よりも自由度が高かった。それまでの漫画とは一線を画していて、やれてよかった連載でした。2巻分ぐらいでさくっと終わるつもりでやっていたから、読みやすかったなって思います。

風俗に行く気持ちはわからない

漫画『ロマンス暴風域』原作者・鳥飼茜――ストーリーは、連載が開始する段階でどこまで決まっていたんですか?    最初から全部決まっていました。それが私にとっては珍しくて、たいていは話を決めても結構途中で変えたりするんですよ。『ロマンス暴風域』は、始めから終わりまで話もキャラも決まっていて、想像通り描いていました。  その理由は、多分、主人公の男性と描いている私に距離があるから。女性の主人公だったら、自分と考えてることを同期させたり、感情の機微をすり合わせたりする作業が必要になります。それで「この場合、もっとこういう展開じゃないと、この気持ちは伝わらないな」と変わっていく。  でも『ロマンス暴風域』については、そもそも風俗にいく男性の気持ちに反発があったから。風俗に通う男性の友達がモデルになっていて、話を聞いたときから「悪いけど、いくら聞いても共感はできない、ゴメン」みたいな感じでした。なので、聞いた話をそのまま描くような読みやすさは、自分の中でありました。 ――男性が風俗に行く理由が、特にわからないと感じた点は何ですか?  普段の生活で出会う友達とか家族に、女性は沢山いるじゃないですか。友達や家庭の友達とか、自分の女性関係の延長線上に、風俗で働いている人がいるわけで。同じ属性の女性を、場所が変わっただけで、肉体の取引をする、性を売り買いする対象とみなせるのがわからないです。もし、私がお金に困って風俗で働いたとして、友達の男性が風俗で出会ったら、どうやってこれまでの付き合いを切り替えて、私と性的に向き合うんだろうって。
次のページ
「オツ」が伝わらないかもしれない
1
2
企画や体験レポートを好むフリーライター。週1で歌舞伎町のバーに在籍。Twitter:@tsumami_gui_

記事一覧へ
ロマンス暴風域(1)

“恋愛弱者のロマンス"ここに開幕!

ロマンス暴風域(2)

肩書、年齢、男性であること――。目を背けることのできない現実に惑う主人公が求める、真実の愛とはなにか。“恋愛弱者のロマンス"ここに完結
おすすめ記事