28年ぶりに復刻販売されてから丸2年が過ぎ、穏やかな炭酸とまろやかなコクがお茶の間に定着した『アサヒ生ビール(通称マルエフ)』。もともと飲食店でのみ販売が続けられており、こだわりの酒場で愛され続けてきた歴史がある。
そんな『マルエフ』と、『アサヒ生ビール黒生(通称黒生)』を2対1の割合で合わせた「ワンサード」という飲み方があるのをご存じだろうか? 今回はその味わいを確かめるべく、『孤独のグルメ』原作者の久住昌之さんと、立石にある名居酒屋『二毛作』を訪ねた。
殻つきカキフライと『マルエフ』で乾杯!
京成立石駅を降りて徒歩2分、線路沿いにある名店『二毛作』。のれんは立石の老舗もつ焼店『宇ち多゛』から寄贈されたものだ
久住:僕は生まれも育ちも西東京の人間だから、東東京に来ることはなかなかないんだけど、初めて立石を訪ねたのは30年以上前だったかな。その時からすでに懐かしい感じの街でした。電車に乗って大きい川を渡ると、知らない街にお邪魔させてもらってる感じがあってちょっと緊張しつつ、文化圏が変わる感じもしてワクワクしますよね。駅の名前も線によって特色があって、「曳舟」とか「青砥」とか、ちょっと変わった名前の駅を通過するだけで楽しい気持ちになります。
現在、大規模な再開発の真っただ中にある京成立石駅周辺。南口にある『二毛作』は、線路沿いということもあり、終始聞こえる列車の車輪音が旅情を掻き立てる。店主は、仲見世通り商店街にある『丸忠蒲鉾店』の二代目・日髙寿博さん。『二毛作』では、『丸忠』の手作り練り物を含む約20種のおでんと共に、『マルエフ』や温度帯にこだわった燗酒、ナチュールワインを楽しむことができる。
朗らかな笑顔で一行を迎えてくれた日髙さんに、早速『マルエフ』を注いでもらった。サーバーのコックをクイッと倒して勢いよくビールを注ぎ、グラスから盛り上がったキメの粗い泡をナイフでそぎ落す。泡が落ち着くのを待ち、さらにビールを足す二度注ぎにより、コシのあるふんわりと柔らかな泡が出来あがる。この日の気温は24度。開け放たれた扉から、少し冷たい秋の空気が流れ込んでくる。
まずはおなじみの『マルエフ』で喉を開く
久住:この時間帯も、気候帯もいいよね。さあ、撮影するなら、とっととしよう。飲みはじめちゃったら、もう飲んじゃうよ(笑)。あぁ、美味しい。
まずは、牡蠣殻に入った状態の「赤崎産カキフライ」(630円)が登場。巷で見かけるカキフライの2倍ぐらいの大きさで、赤茶色のソースが添えてある。『二毛作』では、生でも食べられる牡蠣を使ってフライにしているという。
大きな殻と一緒に盛り付けられた迫力のカキフライ
久住:これは旨そう。『マルエフ』とカキフライ、絶対合うよね。牡蠣は生よりフライで食べるのが好きなので嬉しいです。(口にして)これは、見た目を超えてウマイ! この殻に入って出てくるというのも、ハッタリではない(笑)。や、なんというか、繊細に美味しい。タルタル好(ず)きだけど、これはタルタルじゃもったいない。絶対このソースだ。
日髙:そちらのソースは、ウスターソースとケチャップを1対1で合わせたものです。
久住:正直だなぁ(笑)。ちょうどいい酸味がこのカキフライをすごく引き立ててる。
新橋『ビアライゼ‘98』松尾さん公認の二度注ぎ
久住:ところで、日髙さんと『マルエフ』の出会いはいつ頃になるんですか?
日髙:実は結構最近まで、店ではアサヒさんの『琥珀の時間』というデュンケルスタイルのビールをお出ししていたんですが、終売になってしまったんです。それと前後して『マルエフ』の缶が復刻販売されて、それこそガッキーのCMが気になって(笑)、早速買って飲んでみたら「美味い!」と思って。それがきっかけで『黒生』と合わせてアサヒさんにご紹介いただいた感じです。その時、営業の方が、「注ぎ方で味が変わるから、一度名人がいる店に飲みにいきましょう」と、ビール注ぎの名人である『ビアライゼ’98』の松尾光平さんのところへ連れていってくださったんです。
ビールの注ぎ方は『ビアライゼ’98』の松尾光一さんに教わったのだと話す日髙さん
久住:松尾さんのところには僕も何度か伺ったことがあります。
※久住さんが『ビアライゼ’98』を訪問した記事は
こちら
日髙:松尾さんは動画も撮らせてくださって、「ウチのサーバー(昔ながらの氷冷式)と違って、君のところのサーバーなら、グラスとコックの先が離れないように傾けて注ぐと炭酸が抜けてウチのと近しい泡になる。泡が落ち着くまで少し待って、二度注ぎすればウチのと近い注ぎ方になるから」とかすべて包み隠さず教えてくださいました。
炭酸でお腹が膨れないから、誇張なくそのとき10杯ぐらい飲めたんです。その後、アサヒの営業さんが、「松尾さん公認の注ぎ方って言ってもいいですか?」と聞いてくださったんですよね。『マルエフ』に替えて、注ぎ方も変えて以降、ご注文される方が本当に増えました。誇張ではなくビールの注文量が1.5倍くらいになったんですよ。
グラスとコックの先が離れないように注ぐのがポイントだ
淀みなくお話をしながら、手を動かし続ける日髙さん。そうこうするうち、2杯目の『マルエフ』と「おでん」(120円~)の盛り合わせが久住さんの前にトンと置かれた。
久住:この組み合わせ、最高。今日は何からどう攻めようか、陣を立てないと(笑)。
日髙:今回はうちの人気者たちにしました。大根と紅しょうが天と玉子としらたき。
二毛作の人気者おでんたち。大根と紅しょうが天と玉子としらたき
久住:紅しょうが天からにしようかな。おぉ、これはビールに合いますね。紅しょうが、好きなんですよ、この歳になってもなお。先日銚子で初めて紅しょうがのおにぎり食べたけど、おいしかった。ちなみに大根の真ん中に穴が開いているのはどうしてなんですか?
日髙:味がよく沁みるよう隠し包丁の代わりに入れています。うちの親父がやりはじめて、本当にそういう名前があるのかどうかはわかりませんが、「へそ大根」と呼んでました。
久住:へそ大根! 一度聞いたら忘れないネーミング。大根はその店のおでんを全部吸った、味の試金石だ。だけどつゆは澄んでますね。美しいといってもいいぐらい。これが関西に行くと黒くなるんですよね。蕎麦の出汁なんかは関東のほうが黒くて濃いから、逆の感じがするんだけど、おでんのつゆは関東のほうが澄んでいますよね。この大根、うまいなぁ。
日髙:ウチのつゆはめちゃくちゃシンプルで、かつおぶしで一番出汁をひいて、あと入れているのはお酒と塩だけなんです。さつま揚げや、いろんな具材から出汁が出ますので。
久住:このおでん鍋がまた、シブいですねぇ。かっこいいという意味で。
鍋のなかの出汁はきれいに澄んでいる
日髙:これは、大阪の職人さんが金槌で槌目をひとつひとつ入れたもので、ウチにある備品の中で一番高価なものになります(笑)。
久住:そうなんですね。しかし、おでんっていいですよね。地方なんか行っても、店の軒に「おでん」って書いてあると、それだけで安心する。高級おでんと言われるようなところでも、4つで5000円!なんてことはないだろうからねぇ(笑)。ちょっとお腹が減っているときにもいい。ちなみにこちらのおでんは通年やってるんですか?
日髙:通年やってます。クーラーがかかってるからか、夏も出数は落ちないんですよ。
久住:急に寒くなってきたから、おでんや鍋が恋しくなってきたけど、夏にクーラーが効いた室内で食べるおでんもいいんですよね。通年おでんやってる店、大好き!
最初の一杯としてもおいしい褐色のワンサード
ここで本日の真打、「ワンサード」が登場した。クリアな褐色が美しく、提供直後は泡の色がうっすら2層になっている。割合は、『マルエフ』2に対して『黒生』1。『黒生』の味や香りをほのかに楽しみつつ、『マルエフ』の穏やかなキレと柔らかなコクも味わえるのがうれしい。ここに合わせる料理は、脂身のトロトロ具合が食欲をそそる「自家製チャーシュー」(680円)に鉄鍋で焼いた「目玉焼き」(100円)をトッピングしたもの。
「ワンサード」に合わせるのはこってりしたチャーシュー。目玉焼きの黄身を崩して一緒に食べるのがたまらない
久住:これがウワサの「ワンサード」。ハーフ&ハーフより透明感がありますね。(ゴクリと飲んで)うん、いい! 爽やか。そして、目玉焼きの黄身のキレイなこと。チューシューの厚みもすごい。だけど、お箸で簡単に切れるような柔らかい状態ですよ。玉子と一緒に食べたいけど、まずはチャーシューだけを……。うわー、これはこれは……。肉っ食いが目を丸くして喜びそうな一品ですね。
チャーシューをアテに「ワンサード」が進む
日髙:はい。これは、駅前の老舗精肉店『愛知屋』さんで巻いてもらった肉を仕入れていて、それこそ先ほどのお出汁をベースに醤油と砂糖でシンプルに煮ています。玉子は別注になっているので、このメニューを注文する方の席でよく目玉焼きいるいらない論法が勃発するんです。「チャーシューだけでいい」「玉子多め」「ウチは人数分の目玉焼きが欲しい」って。
久住:楽しい、そして本気の論争ですね。では、目玉焼きを乗せて食べようかな。ムハハ、こりゃわんぱくな食べ物ですよ。このタレと「ワンサード」がまた合う。
日髙:先ほど、うちのビールを『マルエフ』に替えて、注ぎ方を変えてから注文が増えたお話をしましたが、「ワンサード」と「ハーフ&ハーフ」を提供するようになって以降、またさらに注文が伸びたんです。皆さん、1杯目は普通に『マルエフ』を頼まれる方が多いのですが、やはり他で見かけないからか気になるみたいで、「ちょっとこれも飲んでみようかな」と、おかわりしてくださいます。
久住:黒ビールを最初の一杯として飲むことはあまりないけど、ワンサードなら最初の一杯としてもいいですね。
『マルエフ』と『黒生』を2:1で合わせて、家でも「ワンサード」を楽しんでみよう
少しずつ寒くなり冬が近づいてくるこの季節、褐色が美しい「ワンサード」で『マルエフ』の新しい味わいを楽しんでみてほしい。
※記事内で表記している料理の価格は、取材時の金額となります
取材・文/山脇麻生 撮影/加藤 岳
<提供/アサヒビール>