夜勤バイトのほうが高給!? 土地家屋調査士の苦悶
難関試験を突破するために、多くの時間とお金を費やした「士業」の先生方は、今、悪夢の真っ只中。報酬単価は下がる一方、新規の顧客もなかなか取れない。資格さえ取れば一丁上がりも、今は昔。彼らの窮状を覗いてみた。
【土地家屋調査士年収360万円(バイト代込み)】
◆本業よりもバイトで稼ぐ本末転倒な収入構造に、頭の痛い日々が続く
「お恥ずかしい話なんですが、周りに内緒で週4回、仕分けのバイトを夜勤でしてますんや。月の収入は本業とバイト合わせて30万円あるかないかっちゅうとこですわ」
自嘲気味に頭をかきながら、今の生活を語ってくれたのは、高木正道氏(仮名・53歳)だ。高木氏はつい5年ほど前まで、関西地方の中規模都市にある土地家屋調査士の事務所で社員として働いていた。当時の年収は500万円を超えていたのだが、なぜ、安定を捨ててまで独立して辛酸をなめることになったのだろうか。
「見通しが甘かったとしか言えへんですわ。この職業は不動産屋との結びつきが濃いんです。でも、業者への営業がホンマに苦手で何回か接待したんですが、それまで勤め人時代に付き合いがあった不動産屋もガラッと態度が変わりよって、上から目線。周りの調査士は何度も頭を下げて仕事をもらっているみたいですが、僕にはどうにも不向きやったんです」
土地家屋調査士は土地や家屋の登記をする仕事だ。月に4、5戸の登記をすれば30万円ぐらいの収入になるのだが、現在は土地家屋調査士の数が増加して飽和状態に。さらに価格破壊が起きて、10年前の半額で請け負うケースもあるという。なかにはリベートを営業マンに支払う者までおり、弱肉強食の混沌とした業界になっているのだとか。
「デベロッパーと付き合って新築マンションの登記を請け負えば、ン百万円と入りますが、僕にはそんな案件回ってけぇへんですしね(苦笑)。土地の測量と登記をやろうとしたんやけど、測量は自分一人ではできへん。だから社員を1人雇ったのが負の始まりやった」
仕事はないが、給料は支払わないといけないし、マンションのローンもある。しかし、銀行は貸してくれないので、消費者金融からお金を借りて自転車操業が始まり、気がつけば600万円もの借金を背負ってしまうことになった。
「結局、親が亡くなって遺産が入ったので事なきを得ました。でも、娘の進学もあるから、キッツいですわ。マンション売らなあかんなって家内とも話しています」
最近では、バイトの仕事ぶりが評価されて現場を任されるようになってきたという高木氏。
「バイトの給料が多い月もありますし、バイトが忙しくて本業の仕事を断りそうになったこともあって、こら、あかんなって(苦笑)」
どちらが本業かわからなくなりつつある高木氏の不安がなくなる日は来るのだろうか……。
イラスト/石井匡人
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