年間20万人!? 一人っ子政策緩和で誘拐ビジネス増加の危機
中国で、「ミッシングチルドレン」と呼ばれるスマホアプリが話題になっている。路上にいる、ストリートチルドレンや物乞いの子供の顔を撮影すると、あらかじめ登録されている7万人以上の失踪児童の顔写真データベースと照合するのだ。一致すれば、登録者(親族警察)に伝達され、救出に役立つというわけだ。公開から半年余りで、すでにこのアプリによって複数の失踪児童が発見されている。
中国で1年間に失踪する児童の数は、中国政府の統計では約1万人。一方では20万人という数字もあり(香港メディア『鳳凰網』)、正確な数字はわかっていない。ただ、失踪の原因のほとんどが、誘拐であるという点は異論を挟まないところだ。
関連事件も数多い。今年9月、公安当局は複数の省にまたがる大規模な誘拐ネットワークを摘発。300人以上の関係者を逮捕し、92人の児童を保護した。誘拐された児童は、男児の場合で約42万円以上で、女児は22万円前後で売られていたという。
誘拐された児童は多くの場合、犯罪組織の下で物乞いやさまざまな犯罪の実行犯として強制的に働かされることが多いようだ。しかし、なかには中国の“養子市場”に流れることも。広州市の日系メーカー勤務・大倉翔平さん(仮名・39歳)は、相変わらず盛況な養子市場について、こう証言する。
「私の中国語講師は50歳の独身女性なんですが、養子をもらうことにした。受け入れ予定の赤ん坊も決まり、その子の写真を嬉しそうに見せてくれたんですが、ある日、彼女がひどく落ち込んでいた。理由を聞けば、別の養子希望者に競り負けたんだとか。相場も高騰してきているようです」
『ニューヨーク・タイムズ』(’12年12月26日付)は、’11年に2587人の中国人児童がアメリカに養子に出されているとしたうえで、この中に誘拐児童が含まれていると報じた。困窮した家庭に生まれた子供たちを慈善行為として養子として迎える欧米人カップルも少なくないが、逆に誘拐を助長しているとしたら皮肉な話だ。
こうした国際的批判を受け、養子縁組について定めた「収養法」の運用については、厳格化が進んでいる。しかし、依然抜け穴は存在するという。深セン市の不動産会社勤務・岡本宏大さん(仮名・27歳)は話す。
「知り合いの夫婦が養子縁組をしたのですが、法律が厳しくなり、養子の送り出し側も受け入れ側もかなり煩雑な審査や手続きを踏まないといけないそう。ただ、それは建前で、コネや賄賂でどうにでもなるらしく、実際、その夫婦も改竄された出生証明書を発行してもらったらしい……」
一方、「今後、児童誘拐はさらに増加する」と指摘するのは中国在住のフリーライター・吉井透氏だ。その背景として、先日の3中総会(中国共産党総会)でも採択された、一人っ子政策の緩和をあげる。
「これまでは、一人っ子政策に違反した2人目の子供が、仕方なく養子に出されるケースが多かった。しかし、同政策が緩和されると、そうしたことも減ってくる。となれば、養子の“供給源”は児童誘拐がメインになってくる可能性もあります」
一人っ子政策緩和より、中国政府はもっとやるべきことがある。 <取材・文/奥窪優木>
週刊SPA!連載 【中華人民毒報】
行くのはコワいけど覗き見したい――驚愕情報を現地から即出し1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売
『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』 詐欺師や反社、悪事に手を染めた一般人まで群がっていた |
『中華バカ事件簿』 激動の現代中国社会をイッキに覗き見!中国実話120選 |
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ