PPVの法則=タイム・イズ・マネー――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第54回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」月~金更新 WWEヒストリー第54回


 “時は金なり”というだれでも知っていることわざの起源は、古代ギリシャまでさかのぼるといわれる。18世紀のアメリカの政治家ベンジャミン・フランクリンの口ぐせもこの“タイム・イズ・マネーTime is money”だったらしい。

写真は「レッスルマニア」大会オフィシャル・ロゴ

ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスの3都市同時開催となった“レッスルマニア2”。各ロケーションの“持ち時間”はそれぞれ1時間ずつというひじょうにタイトなタイムテーブルになっていた。(写真は「レッスルマニア」大会オフィシャル・ロゴ)

 PPV(ペイ・パー・ビュー=契約式有料放映)という“未知のテクノロジー”の本格的導入は、アメリカにおけるプロレスと時間とお金の関係を根本から変えた。

 “レッスルマニア2”(1986年4月7日)は、ライブ・ショーの進行よりもPPV放映ワクのタイムテーブルが優先された実験的イベントだった。

 ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスからの3元生中継のランタイムは3時間。各ロケーションの“持ち時間”は、試合と試合以外のセレモニーを含めてわずか1時間ずつというひじょうにタイトな進行になっていた。

 PPVのオープニング・シーンとなったナッソー・コロシアム(ニューヨーク)からの映像は、レイ・チャールズによる“アメリカ・ザ・ビューティフル”の熱唱。3時間番組の第1ブロックにはポール・オーンドーフ対“マグニフィセント”ドン・ムラコ、ランディ・サベージ対ジョージ“ジ・アニマル”スティール、ジェーク“ザ・スネーク”ロバーツ対ジョージ・ウェールズ、ロディ・パイパー対ミスターTのボクシング・マッチの4試合がラインナップされた。

 オーンドーフ対ムラコのシングルマッチは、オーンドーフがベビーフェースでムラコがヒールというシチュエーションだったが、試合は4分10秒というきわめて短いファイトタイムで両者カウントアウトのドローに終わった。

 前年の“レッスルマニア”第1回大会でメインイベントのリングに立ったオーンドーフは、この日は第1試合という前座のポジションに甘んじた。オーンドーフは数カ月後には再びヒール転向を果たし、ハルク・ホーガンのライバルとしての道を歩むことになる。

 第2試合のサベージ対スティールの一戦は、“ゴリラ男”スティールがサベージのマネジャーのエリザベスを好きになってしまうという恋愛ドラマの基礎編。1980年代のWWEのソープオペラは、台詞のないパントマイムだった。

 試合は、この時点ではまだヒールだったサベージが、スティールのタイツをつかんでの定番の反則フォールで速攻の3カウントをゲット(5分10秒)。サベージは2年後の“レッスルマニア4”で主役の座に躍り出ることになる。

 第3試合のロバーツ対ウェールズのシングルマッチは、ロバーツが元祖DDTでウェールズからあっさりとフォール勝ちをスコア(3分15秒)。試合終了後はロバーツの“愛蛇”ダミアンがウェールズに襲いかかり、ウェールズは口から泡を吹いて失神した。このシーンは、現在では動物虐待として放送倫理にひっかかる。

 “ヘビ男”ロバーツは、いまでいうとちょうどアンダーテイカーと同じようなポジションのあくまでも“別格”の怪奇派だった。プロレスラーとしてのキャラクターと実生活の境界線を見失ってしまったロバーツのその後の数奇な運命は、ドキュメンタリー映画『ビヨンド・ザ・マット』(1999年=バリー・W・ブラウスティン監督)に克明に描かれている。

 第1試合から第3試合までの合計ファイトタイムは12分35秒。第4試合のパイパー対ミスターTのボクシング・マッチ(10回戦)は、両陣営の入場シーンとリング上でのイントロダクションに10分以上の時間が費やされたが、試合は第4ラウンド1分15秒、パイパーの反則負けという結果に終わった。

 ニューヨークからの生中継映像は、予定どおり4試合で1時間というワクにしっかりと収まっていた。ビンス・マクマホンはこの日、実況アナウンサーとしてプレー・バイ・プレーを担当した。“王様”はまだ41歳だった。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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ビヨンド・ザ・マット

テリー・ファンク、ザ・ロックなど、アメリカのプロレス団体“WWF”に所属するレスラーたちの素顔に迫ったドキュメンタリー映画。

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