“ビミョーなボクシング”パイパー対ミスターT――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第53回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」月~金更新 WWEヒストリー第53回


 “レッスルマニア2”はニューヨーク州ユニオンデールのナッソー・コロシアム、イリノイ州シカゴ郊外のローズモント・ホライズン、カリフォルニア州ロサンゼルスのロサンゼルス・スポーツ・アリーナの3会場で同時開催された(1986年4月7日)。

アメリカの芸能誌『PEOPLE』マガジン表紙より

“レッスルマニア2”ニューヨーク版のメインイベントは、前年の“レッスルマニア1”の続編といっていいロディ・パイパー対ミスターTのボクシング・マッチだった。(写真はアメリカの芸能誌『PEOPLE』マガジン表紙より)

 各ロケーションの“持ち時間”はそれぞれ1時間ずつで、アメリカ&カナダの4つのタイム・ゾーン(東海岸標準時間帯と西海岸標準時間帯の時差は3時間)を利用してライブ映像がイーストコーストからウエストコーストへ移動していくという仕掛けだった。

 ニューヨークの実況・解説はビンス・マクマホンと女優のスーザン・セント・ジェームズで、シカゴの実況チームはゴリラ・モンスーン&ジーン・オークランド。ロサンゼルスではジェシー・ベンチュラ&ロード・アルフレッド・ヘイズの実況コンビにホラー女優のエルバイラがゲスト・コメンテーターとして加わった。

 “レッスルマニア”第2回大会には前年度よりさらに多くのゲスト・セレブリティーが投入された。イベントのオープニング(ニューヨーク)では“盲目の大シンガー”レイ・チャールズが“アメリカ・ザ・ビューティフル”を熱唱。“ハードロックの大王”オジー・オズボーンがブリティッシュ・ブルドッグスのセコンドとしてシカゴに登場し、LAではロサンゼルス・ドジャースのトミー・ラソーダ監督(当時)がゲスト・リングアナウンサーをつとめた。

 全米の映画館、劇場を使ったクローズド・サーキット上映は前年の138ロケーションから今大会は200ロケーションに拡大(入場料も前年の9ドル平均から15ドル平均に値上げ)。当時はまだ“未知のテクノロジー”とされ一般家庭への普及が疑問視されていたPPV(ペイ・パー・ビュー=契約式有料放映)が本格的に導入されたのもこの大会からだった。

 ニューヨークのメインイベントは、“レッスルマニア1”の続編にあたるロディ・パイパー対ミスターTのボクシング・マッチ。アクション俳優のミスターTは映画『ロッキー3』で世界ヘビー級王者クラバー・ラング役を演じたことから“ボクサー”のイメージが強かったが、じっさいはボクシングの経験はなく、いっぽうのパイパーは少年時代からボクシングを学び、アマチュアのゴールデン・グラブ賞を受賞したこともある“隠れボクサー”だった。

 プロレスラーと俳優によるボクシングの“決闘”というビミョーな企画は、笑えないコメディになってしまう危険性を早い段階から指摘されていたが、結果的にそれは現実のものとなってしまった。

 ミスターTのセコンドには、あのモハメド・アリをKOし、1970年代に一世を風びした“スモーキン”ジョー・フレージャーがキャスティングされ、パイパーのセコンドには“悪徳トレーナー”ルー・ドゥーバが起用されたが、どんなに演出を凝ってもボクシングらしいボクシングを“演出”することはできなかった。

 “10回戦”としてラインナップされたボクシング・マッチは、第4ラウンド1分15秒、パイパーがミスターTをボディースラムでキャンバスにたたきつけて反則負けを食らった。ニューヨークの観客はヒールのパイパーに大声援を送り、ベビーフェースのはずのミスターTにブーイングを浴びせた。

 ナッソー・コロシアムに集まった1万5500人の大観衆は、ひじょうに目の肥えた都会のファンだった。パイパーはどんなにあくどいことをやってもなぜか憎まれないヒール的ベビーフェースで、テレビの画面のなかでは大きくみえるけれどリングに上がるとちいさいミスターTは“取り扱い注意”のシロモノだった。

 ニューヨーカーは、プロレスのリングに上がるモチベーションがいまひとつはっきりしないミスターTに対し、はっきりと拒絶反応を突きつけた――。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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