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生活苦なのに…親族の生活保護扶養照会が来た

 タレント・河本準一の母親が、河本の年収が5000万円でありながらも生活保護を受給していた問題が巷ではにわかに紛糾している。    弁護士・尾藤廣喜氏を代表幹事とする生活保護問題対策全国会議が出した「生活保護に関する冷静な報道と議論を求める緊急声明」によれば、生活保護法上においては ・扶養義務者の扶養は保護利用の要件とはされていないこと ・成人に達した子供の親に対する扶養義務は「そのものの社会的地位にふさわしい生活を成り立たせた上で余裕があれば援助する義務」に過ぎないこと、不正受給の要件に当てはまらないこと ・その場合の扶養の程度や内容はあくまでも話し合い合意を元にするものであること  というように扶養の在り方が規定されているのだという。こうした規定についての議論がないがしろにされたまま、河本氏が高額年収をだったことなどから、単なるバッシングにも近い状況になり、一方的に不正受給とするかのような論調や、「さすがに5000万円もあれば母親一人ぐらい養えるだろ!」という論調が噴き上がっている。  さらには、それが過熱化し、いつしかネット上を中心に「生活保護受給は恥」、「扶養義務のある三親等は無条件で養うべき」という極端な論調に発展しつつある。  この論争を、いままさに「親族が生活保護を申請した」当事者はどう見るのだろうか。  叔母が最近生活保護申請をしたという東京都在住の南あかねさん(仮名)はこう語る。 「私は東京都内在住なのですが、同居している母宛に先月、隣の県の役所から封書が届いたんです。中身は、母親の妹が生活保護申請をしたことによる扶養照会でした。しかし、母自身も無年金で私が養っている状態だし、母と叔母は長年険悪な仲で、他の親族とも繋がりが薄くて……」  結局、親族全員が扶養を断ったという。確かに、突然扶養義務だと言われても、扶養義務者自体が高齢者だったり、収入がそんなに多くない場合もある。  南さんは「そのほうが本人にも私たちにとっても最良の選択」だというが、実は親族の間でも一人だけ余裕のある叔父について非難の声が上がっているという。 「叔父は表向きはタクシー運転手ですが、都内でビジネスホテルを経営していた祖父の遺産約3億円を独り占めし、優雅に暮らしているんです。外車を乗り回し、元ホステスのフィリピン人妻とその親族にも遺産をたっぷり与えています。おまけに娘はヤク中で手癖が悪く、そのことを2ちゃんねるに実名入りで書き込まれたこともあるぐらいの悪評高い人物。親戚の間でも、彼が叔母を養ってあげればいいと非難されています」  どうやら、親族内でもさまざまな軋轢を生じさせてしまっているようだ。  南さんの親族の例を挙げるまでもなく、家庭の問題はDVなどさまざまな問題を孕んでおり、うかつに一般化はできないはず。仮に十分な資産があったとしても既に絶縁状態の親族を養うような場合、考慮しなければならない問題も多いはず。  また、いたずらに扶養義務を強化することは、親族間で申請者が「厄介者」のように扱われることにも繋がり、申請すべき人にとってますます申請しづらい状況を作ってしまう。日本の生保捕捉率(本来支給されるべき基準の人に支給されている率)は、先進国でも格段に低いのにも関わらず、である。  片山議員は「個人攻撃ではなく、”もらい得”をなくすためのもの」と説明しているが、生活保護制度における扶養の要件についての正確な理解を欠いていることや、「まずは『家族による扶養』という常識が浸透することを期待します」(世耕弘成議員)というように、レアケースである高額所得タレントの道義的問題を「常識」という曖昧な定義で一括りにして問題をすり替え、生活保護制度全般や利用者全般に問題があるかのように報道される点に違和感をおぼえる人も少なくない。  南さんも怒りをあらわにする。 「要するに『生活が苦しければ、国のセーフティネットは極力使うな、親族で共倒れになれ』ということですよね。もしも母のほかに叔母が増えると、私は将来のための貯金もできなくなる。そのうち、逆に私が生活保護申請をすることになりますよ。この議員さんたちは後にも先にも生活保護のお世話になる可能性がない人たちですよね。国会議員ともあろう人が庶民にこんな論理を押しつけるとは……」
厚生労働省,生活保護

確かに生活保護は「自立を促す制度」であり、片山議員の言うとおり「もらい得」制度ではない

 <取材・文/日刊SPA!取材班>
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