サッカー元日本代表・柏木陽介の過信と苦悩
「自信が確信に変わった」。横浜高校から甲子園の大スターとして鳴物入りで西武ライオンズに入団した18歳の松坂大輔が、イチローとの初対決を4打席3三振1四球で制した試合後、口にした言葉だ。いかにも“怪物”松坂らしい強気のコメントだが、例え類まれな才能を持ったアスリートであってもメンタルが強靭な選手ばかりではもちろんない。
「自信が過信に変わった」
こんなネガティブな懺悔ともとれるフレーズをタイトルにした自伝を先日発表したのは元日本代表にして浦和レッズのMF柏木陽介。レッズといえば、昨シーズンのJリーグ、’06年以来の優勝を目前にしながら、まさかの大失速で優勝を逃したのは多くのサッカーファンの記憶に残るところ。柏木は本の中で母子家庭で育ちながらプロ入りするまでの苦労、「優勝したい」とユース世代から育ったサンフレッチェ広島からレッズに移籍したものの、未だに優勝できない昨シーズンまでの葛藤(その間に古巣サンフレッチェは2度のリーグ優勝)や日本代表への強いこだわりを赤裸々に語っている。
発売に際して柏木本人にあらためてその胸の内を聞いてみた。
「毎年悔しい思いをしていますし、自分がレッズに来たのはタイトルを獲るため。タイトルを獲るためにはまず点を獲ることを意識していきたい」
と2シーズン前にはキャリアハイの8得点をマークしながら、昨シーズンは3得点に終わった結果を踏まえて自らの課題をまず口にした。
“調子乗り世代”と呼ばれた北京五輪代表でも中心選手としてチームを牽引、同期の香川真司や内田篤人、森重真人ら逸材揃いのメンバーの中でも目立つ存在だった柏木。怪我による不振で本選出場はかなわなかったが、その後も順調にキャリアを積み、’10年にはフル代表デビューも果たしている。しかし同期たちが中心選手として活躍する現在のアギーレジャパンに彼の名前はない。
先日のアジアカップでは前回チャンピオンとして臨みながら、実に19年ぶりのベスト8敗退と結果を残せなかったアギーレジャパン。全ての試合をチェックしていたわけではないと前置きしながらも
「自分が入ったら、どんなプレーをするか常にイメージしながら観ていました。(UAE戦の)PK戦は観ていましたよ。真司(香川真司/ドルトムント)にはどんな言葉をかけたら、いいか分からなかったので送りませんでしたが、(仲のいい)太田(太田宏介/FC東京)には「お疲れさま」とメールしました」
とあらためて代表復帰への意欲を見せるとともに、かつての戦友たちを思いやった。
Jリーグではトップクラスの名手と評価される柏木。レッズでは中盤の要としてファンから“浦和の太陽”と呼ばれるなどその存在感はチームの中でも抜きん出ている。しかし、フル代表には’12年を最後に招集されていない。
そんな彼は自伝の中でサッカー選手としての半生を「自信が過信に変わった」と後悔の念と共に振り返っている。サッカー選手の多くがそうであるように「ワールドカップに出ることが夢」である柏木はメンタルが弱く、“寄り道も多かった”と自覚したうえで「それが自身の成長の糧になっている」と言う。だからこそ、再び代表に返り咲くためにも是が非でも昨シーズンは優勝したかった。
「何よりもレッズで結果を出すことが代表への近道だと思っています。自分らしくこれからも一番良い自分を出し続けていれば、自然と代表に近づけると信じてやっていきたい。今まで以上に中心選手だという自覚を持って、攻撃でも守備でも起点になるという意識を高く持ちながらプレーしたいですね」
と来たる新シーズンへの意気込みを口にする。
「過信」により失ったものを取り戻すための2年間。’13年からの2年間を自らそのように位置づけ、自伝のタイトルにもした柏木。まさかのV逸から並々ならぬ決意で臨む新シーズン、“浦和の太陽”は再び輝くのか、期待をもって見守りたい。
【柏木陽介】
’87年、兵庫県生まれ。浦和レッドダイヤモンズ所属のMF。サンフレッチェ広島ユースからトップチームに昇格してプロに。2010年シーズンにレッズへ移籍。ポジションはトップ下とボランチ。豊富な運動量であらゆるスペースに顔出しながら、チームの得点機を演出する。前回アジアカップの優勝メンバーの一人でもある
●『「自信」が「過信」に変わった日 それを取り戻すための2年間』
(柏木陽介著/KKベストセラーズ刊)
「優勝して出したかったですね」と柏木。初の自伝は母子家庭に育った生い立ちから、各世代で代表に選ばれるなど若くしてプロとして成功しながら、「過信」から歯車の狂った苦悩の日々が綴られている。
<取材・文/日刊SPA!編集部 撮影/難波雄史>
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『「自信」が「過信」に変わった日 それを取り戻すための2年間』 もがきながら「栄冠」を目指した2年間を中心テーマとしながら、柏木陽介の半生、アスリートの苦悩を描く。 ![]() |
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