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頻発したサッカースタジアムでの差別問題。各クラブの対策は?

◆頻発した差別問題。その裏には海外と国内での認識に差が……
Jリーグ公式サイト

Jリーグ公式サイトより

 差別的な横断幕が掲出され、史上初の無観客試合が行われた今シーズンのJリーグ。問題の行動を起こした浦和レッズサポーターには無期限入場停止処分が科され、社会的にも大きく取り上げられたが、早くも次の事件が発生した。8月23日に行われた川崎×横浜F・マリノス戦で、横浜F・マリノスサポーターが川崎の黒人選手に向けてバナナを振りかざしたのだ。 「Jリーグのスタジアムにはいつも素晴らしい雰囲気がありますし、家族で訪れる人も多いので差別的な行動を持ち込むファンがいるのは許せないです」と語るのはサッカージャーナリストのダン・オロウィッツ氏。サッカー界から差別を撲滅しようという世界的な潮流に逆行してしまった形だ。 「浦和の事件は正直あまり驚きませんでしたが、横浜F・マリノスの件は非常にショックでした。浦和の件もあったし、欧州でもバナナ事件が起きているのに、なぜわざわざ持ち込むのかと」  今後、各クラブは差別問題にどう対応していくのだろうか? 週刊SPA!では差別問題に関するアンケートを送付したが、本稿の締め切りまでに回答を得られたのは、たったの2チーム。また、4クラブが回答を拒否し、なかには「答える必要はないと判断しました」、「直接お会いしたことのない人には答えられません」というプロスポーツチームとは思えないような回答もあった。オロウィッツ氏は差別問題への対応についてこう分析する。 「今までクラブに科された処分は相応しいと思いましたし、スタジアムやHP上での注意もいいと思います。しかし、恐らく一番ピンと来るのは人種差別により、傷を負った人々からの言葉ではないでしょうか。もっと外国人選手や監督の声を聞きたいですね」  しかし、あるクラブの広報担当者は、今回のようなアンケートに答えるのは難しいと語った。 「記事が意図しなくても、アンケートの結果だけで批判されるリスクを考えたときに回答を拒否するクラブが出るのは仕方ないと思います。複雑な問題だからこそ、伝えるならしっかり伝えたいです」  単純な解決策は見つからないが、先述のオロウィッツ氏は情報が鍵になるのではないかと指摘する。 「『事件が亀裂を生んだ』というより、日本サッカー界の広報力や海外への発信力が足りないと感じました。浦和の件では村井チェアマンの公式コメントの英訳がぐちゃぐちゃでしたし、リーグやクラブの反応もかなり遅かったです」  こうした反応の遅さはネットなど、新しいメディアの扱いを理解していないことが原因だという。 「日本のメディアは『クラブやリーグの広報部』になりがちですが、海外ではそういうわけにはいきません。だからこそすぐに世界中に広まってしまったのだと思います」  今年の差別事件はSNSで即座に拡散されたが、そうしたスピードに追いつかなければ、世界のトップを目指すのは難しいだろう。  先述のアンケート結果について大本のJリーグに問い合わせると、以下のような答えが返ってきた。 「告知の徹底や研修の実施など、人権啓発活動については各クラブに再度通知しました。今後はそれを実施し、そのうえで施策を考えることになりますので、それ以前の段階でアンケートに回答するのは難しかったのかもしれません」  今回、処分を受けた横浜Fマリノスは早くも選手が差別撲滅を訴える動画を公表している。未然に差別を防ぐためにも、迅速な対応や発信力に期待していきたい。 【差別問題に関するアンケート】 Q1 スタジアム内での人種差別的行為を防ぐため、どのような対策を行っていますか? <ヴァンフォーレ甲府> ・大型ビジョン、放送での告知。 ・各入場ゲート前にマナー看板を設置しての告知。 <名古屋グランパス> ・入場時の横断幕のチェック。 ・横断幕掲出時(先行入場1時間前)に、警備員による巡回。問題あれば、即対応できる体制を敷いている。 Q2 人種差別的行為を未然に防ぐため、スタジアム外で行っている対策はありますか? <ヴァンフォーレ甲府> ・定期的(2か月に1回を目安)にサポーター団体とクラブ間で話し合いを行っている。 <名古屋グランパス> ・クラブ全スタッフ・選手に「人権」に関する研修会を実施。 ・今後、サポーターに対しても同様の啓発ができる方法を検討中。 ※9/9発売の週刊SPA!では、「事件から見える[ニッポンの亀裂]」というワイド特集を掲載中。事件の背景にあった、または事件が生み出した「日本社会の断層」とは?  <取材・文/週刊SPA!編集部>
週刊SPA!9/16・23合併号(9/9発売)

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