「実質賃金低下」の罠にハマるな――“反アベノミクス”に反論

連載04【不安の正体――アベノミクスの是非を問う】

実質賃金の低下は1997年から始まっていた

 ここ数年、アベノミクスを批判する報道などで、「実質賃金の低下」に注目が集まっています。しかし、実質賃金は安倍政権発足以降に下がり始めたわけではなく、すでに1997年から下がり始めています(図1)。

⇒【資料】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=865868

6-1 かといって私は「1997年から実質賃金は低下しているのに、アベノミクスだけ批判されるのはおかしいじゃないか!」と言いたいわけではなく、アベノミクス以前と以後での「実質賃金の低下」、その中身の違いについて詳しく見るべきだと考えているのです。

アベノミクス以前と以降の実質賃金低下の違い

 まず、図2を見てください。これは名目賃金(目に見える給料)と消費者物価指数の推移を表したグラフです。

⇒【資料】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=865869

6-2 このグラフをよく見ると、アベノミクス以前と以後(2013年以降)の実質賃金低下には、以下のような違いがあることがわかります。

アベノミクス以前(2013年以前)――物価が減少しているが、それ以上のスピードで名目賃金が減少している
アベノミクス以後(2013年以降)――名目賃金が上昇しているが、物価上昇のスピードのほうが早い

 つまり、物価も賃金も一緒に下落しているアベノミクス以前の日本経済と、物価と名目賃金がともに上昇しているアベノミクス以後の経済では、同じ「実質賃金の低下」でもその中身はまったく異なるのです。とくに大きく異なるのは、「名目賃金(目に見える給料)が上昇しているか否か」です。この違いはどのような影響を生み出すのか? これには次に説明する「貨幣錯覚」という現象がかかわってきます(※アベノミクス以降も名目賃金はほとんど増えていないのではないか? という意見もあろうかと思いますが、アベノミクス以降では雇用者が100万人増えましたので、一人あたりの平均賃金である名目賃金よりも、雇用者全員が受け取る所得の合計である雇用者報酬が大きく伸びています。詳しくは以前掲載した記事『「国民の所得は増えていない」のウソ――“反アベノミクス”に反論』を参照ください)。

名目賃金上昇は「貨幣錯覚」を引き起こす

 まず、貨幣錯覚とは何なのでしょうか。普段聞きなれない言葉ですので、たとえ話で説明します。

 次のAとBのケースがあった場合、皆さんはどちらがいいと思いますか?

■ケースA 物価上昇率が12%のときに5%給料が上昇する。
■ケースB 物価上昇率が0%のときに給料が7%下落する。


 このように物価上昇率と給料の上昇率を分けて書かれると混乱してしまうのですが、この2つのケースを実質賃金で書き直すとこうなります。

■ケースA 実質賃金7%ダウン
■ケースB 実質賃金7%ダウン


 実は両者とも実質賃金で見ると同じ7%の下落なのです。この例はマッテオ・モッテルリーニ著の『経済は感情で動く―― はじめての行動経済学』からの引用ですが、この著書の調査においてケースAを不当だと感じた人はたったの22%だったのに対し、ケースBを不当だと感じた人は62%もいたそうです。両者とも実質賃金の観点から見ると同じ現象なのですが、不思議なものですね。

 要するに、物価が上昇して実質的な賃金が下がっていても、一般の国民は物価の上下までには関心が及ばないため「実質的な賃金が下がった」とは実感しにくく、名目賃金(目に見える給料)が上がれば購買力が上昇したと錯覚し消費は増えるということです。給料が増えるとちょっと贅沢をしてみたくなりませんか? これが貨幣錯覚と呼ばれる現象です。

 逆に給料は下がっているものの、それ以上に物価が下がり、実質的には購買力が増えている状態、つまり、実質賃金は上がっている状態において「みんなでパーッと飲みに行こうか!」とはなかなかならないと思います。とてもそんな気分にはなれません。

 人は機械やコンピュータではありませんので、常に合理的な行動することはなく、感情的に非合理的な行動をとってしまう生き物なのです。実額で給料が増えたらやっぱり嬉しいですよね? 私も給与明細を見て上がった、下がったと一喜一憂してしまいます。いくら物価が下がっていても、実額(名目)で給料が減って喜ぶ人はいないでしょう。

 つまり、国民の消費マインドを引き上げるには名目賃金の上昇が重要であり、人々が普段意識することのない「実質賃金」はあまり重要な指標にはなりません。現に’97年以降、実質賃金は下がり続けていましたが、一般の人で「実質賃金」を気にかけている人はほとんど皆無だったと思います。

 デフレを脱却し雇用が改善すると、企業は雇用を確保するために賃金を引き上げます。名目賃金の上昇とともにやがて実質賃金も上昇に向かうでしょう。現に6月2日に発表された4月の賃金統計では、実質賃金が前年比0.1ポイントのプラスに転換しました。「貨幣錯覚」もありますし、「実質賃金の低下」を大げさに煽る必要がどこにあるのでしょうか?

「貨幣錯覚」が機能しないケース

「実質賃金低下」の罠にハマるな――“反アベノミクス”に反論 ただし、この「貨幣錯覚」はうまく機能しないケースがあります。それは国民が強く「実質賃金の低下」を認識した場合です。貨幣錯覚はあくまで錯覚ですので、実質賃金の下落を国民が実感できない場合にはそれなりに機能しますが、実質賃金の低下を国民が意識しはじめてしまうと、国民の消費マインドは低下してしまうのです。

 例えば昨年の消費税の増税。当然のことながら、増税分の物価上昇は国民が事前に理解しています。4月1日を境に一斉に実施されるため、その価格上昇は肌で実感できます。すると、国民は名目賃金(目に見える給料)が上昇したとしても、実質的な購買力の低下を強く意識してしまい、消費が萎縮してしまうのです。

 実際、昨年4月の消費税増税以降、国民の消費支出は大きく低下しました。アベノミクスによる名目賃金や雇用者報酬上昇の効果を、消費税増税が見事に打ち砕いてしまったわけです。消費税増税による実質賃金の下落幅は約2%と言われていますので、その影響は甚大です。

 実質賃金低下を問題視するのであれば、貨幣錯覚の効果を打ち消し、大幅な実質賃金低下を招く消費税増税のほうを批判すべきでしょう。しかし、なぜか新聞やテレビなどの報道では、アベノミクスが批判の矢面に立たされ、増税は10%でも不十分だという主張がなされています。なぜ実質賃金低下の主犯である消費税増税を問題視しないのでしょうか?

実施賃金低下を煽る報道は控えるべき

「貨幣錯覚」が効かない一例として消費税増税を挙げたのですが、増税に限らず「実質賃金の低下」を国民が意識すれば、消費は縮小します。勘のいい方はお気づきかと思いますが、昨今の新聞テレビなどで繰り返される「実質賃金の低下」を煽るような報道は「貨幣錯覚」の効果をキャンセルし、国民の消費活動を萎縮させてしまう可能性があります。

 それよりも、デフレ脱却過渡期における実質賃金の低下は一時的なものであること。2015年度は実質賃金が上昇に転じる可能性が高いこと(すでにプラスに転じました)。消費税増税が実質賃金低下の主犯であること。名目賃金や雇用者報酬は増大していることなど、賃金所得に対する正しい情報を発信することのほうが、日本経済や国民生活にとってプラスに働くのではないかと考えます。

 野党や新聞マスコミはアベノミクスを批判したいがために、冷静な判断をしないのだと思いますが、自分たちの言動が実社会にどのような悪影響を及ぼしているのか、国益の観点から一度見つめ直してほしいと思います。

まとめ
・国民は実質賃金の変化を自覚しにくいため、名目賃金の増減が消費行動に強く影響する(貨幣錯覚)
・ただし、消費税の増税のように、国民が強く実質賃金の変化を意識してしまうと貨幣錯覚の効果は機能しない
・「実質賃金」を必要以上に煽る報道は、貨幣錯覚の効果をキャンセルし、国民の消費マインドを萎縮させてしまうおそれがある
・「実質賃金」に対する正しい情報を発信すべき

※本記事は前回記事「『実質賃金低下』の正体――“反アベノミクス”に反論」の続きです。併せてお読みください。

【山本博一】
1980年生まれ。経済ブロガー。ブログ「ひろのひとりごと」を主宰。医療機器メーカーに務める現役サラリーマン。30代子育て世代の視点から日本経済を分析、同世代のために役立つ情報を発信している。近著に『日本経済が頂点に立つこれだけの理由』(彩図社)。4児のパパ

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