戦時の旧日本陸軍を壊滅させた「元祖・ブラック企業」な作戦
終戦から70年目とあって、様々なメディアで、日本がかつて崩壊しかけた第二次世界大戦が振り返られている。その中で、1944年3月に日本軍が行った「インパール作戦」は、現代のサラリーマンにも、強いシンパシーを感じさせる戦いかも知れない。この作戦が、世界中の軍事評論家から「無謀」と酷評されているにも関わらずだ。
第二次大戦中、南方のビルマ(現・ミャンマー)を占領した日本軍は、長くインドを支配してきたイギリス中心の連合国軍と、ミンタミの山々を挟んで睨み合いを続けていた。
両軍を躊躇させたのは、「自然の要塞」と呼ばれる険しい山々で、食糧や弾薬を運ぶことが絶望的。しかも、マラリアやデング熱など、様々な伝染病まで蔓延していたのだ。
ここを、事実上の気合い一辺倒で突破させ、日本陸軍そのものを壊滅に追いやったのが、牟田口廉也中将によるインパール作戦である。動員された約8万5千人の日本軍で、推定3万人が死亡。正常な身体で帰還できたのは、1万人程度だったと言われている。
牟田口中将は、作戦失敗後に上司と責任をなすりつけ合い、戦後にも「独断で撤退した師団さえなければ勝てた」という持論を国会図書館に残している。謝罪なき余生をまっとうしているため、旧日本軍を過大評価するネトウヨからも、さすがにその力量を肯定されることは少ない。
戦史学者の荒川憲一氏は「仮に攻め込むにしても、もっと柔軟性に秀でた方法があった」と語る。それでもインパール作戦が選択されたことについては「牟田口中将には戦局への危機意識が薄く、英雄になることに憧れた言動も複数見られます。実行するリーダーの狙いが、組織の狙いと食い違った場合、計画が失敗するのは戦いでよくある話です」と分析した。
無能なリーダーによる安易な根性論、異常なポジティブ思考の強制など、インパール作戦には、現代のブラック企業に通ずる点が多い。対照的に、これらが極端に欠落した「ゆとり世代」が台頭したのも現実である。この作戦失敗を現代の反省材料にするなら、根性論の否定ではなく、根性と柔軟な発想をハイレベルで融合させることかも知れない。
※8月15日午後7時からフジテレビ系で終戦特番『私たちに戦争を教えてください』がオンエア。筆者らによるインパール作戦ルートへの潜入も放送されています。
<取材・文/善理俊哉>
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