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五木寛之作品が暗いエンタテインメントなのに支持される理由

― 週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―  五木寛之さんと対談させてもらいました。僕の『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』(講談社現代新書)を読んでお声をかけて下さったのです。 ドン・キホーテのピアス モノを書く人間からすると、「五木寛之」という名前はちょっと別格で、昔、タモリさんのオールナイトニッポンで雲上人であるゆえの愛情ある茶化し方を覚えています。  二十代の頃『蒼ざめた馬を見よ』を読んで、そのあまりの技巧に、「いやっ、これは自分の読むものではないっ!」と遠ざけました。若い頃は、意味もなく壊れているものが好きなのです。おほほほ。  五木さんとお話しするというので、あらためて読み返してみると、その上手さに唸りました。勢いでデビュー作の『さらばモクスワ愚連隊』や『戒厳令の夜』など読み漁りました。  どれも面白く、五木さんはデビュー時に「自分は文学ではなく、文芸を目指す」と書かれているのですが、文芸がエンタテインメントの意味だとすれば、本当にどの作品も時間を忘れて読みふけりました。  ただ、これも五木さんが自分でおっしゃっているのですが、どの作品も「暗い」のです。それも、結末が特に暗い。誰かが生き残ったり、奇跡が起こったり、偶然から助かったりもしない。  ただ、起こるべきことが起こっている。  純文学ならまだしも、エンタテインメントでそんな暗い結末なら、普通は大衆レベルでは受け入れられるはずがないのですが、多くの作品が何百万部のベストセラーで、コンスタントに何十万部が売れています。つまりは、その暗さを大衆は支持したのです。  これが僕はじつに不思議でした。  この暗さの根っこは、戦争体験があります。

12歳の五木少年はどんな地獄を見たのか

 五木さんは終戦時、12歳、平壌で迎えます。終戦の数日前から、じつは、平壌駅は高級将校とその家族でごった返し、飛行場では家財道具も積んだ別の高級将校が家族と共に軍用機に乗って日本へ帰って行ったといいます。  つまりは、敗戦の情報を事前に知っていたのです。  五木さんの父親は教員でしたが、8月15日の前日になっても「明日、重要な放送がある。どうも、ソ連と手を組んでアメリカをやっつける発表のようだ」と12歳の五木さんに話していたそうです。教員というインテリでさえも、事情を理解していなかったのです。基地はまだしも、将校でごった返す平壌駅を見ても、誰もまさかそれが「我先に逃げ出す軍人」だとは思わなかったのです。 「情報弱者というものが一番悲しい」と五木さんは仰います。
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終戦後の地獄
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ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

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本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻。鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録

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