ニュースで報じない「ハマスの最終目的」とは?日本のメディアが“中立であるフリもしない”理由
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム過激派テロ組織「ハマス」が突如イスラエルを攻撃。軍事衝突が激しさを増すなかで、双方の死者は2800人を超えた(13日時点)。
イスラエル・パレスチナ情勢に関心が高まるなかで、これまで日本メディアが報じてきた中東和平問題がいかに偏向的なものであったか、イスラム思想研究者の飯山陽氏は指摘する。
中東問題再考』(育鵬社刊)の一部を抜粋・再構成したものです。※肩書は当時のもの>
いわゆる中東和平問題について、日本の外務省は次のように説明しています。
「中東和平問題とは、数次にわたる戦争でイスラエルが占領した土地(ヨルダン川西岸、ガザ地区、ゴラン高原)を、イスラエルの安全を確保しつつパレスチナ人を含むアラブ側に返還して、いかに和平を実現するかという問題です」
ここでなぜ外務省の説明を引用したかというと、中東和平問題はどの立場に立つかによって、全く異なる言説、主張が展開される問題だからです。
私は日本人であり、この問題についても日本の国益を守るという立場に立って考えるべきだと理解しています。
外務省の説明で重要なのは、「イスラエルの安全の確保」について明記されている点です。
外務省は2020年3月には、「中東和平についての日本の立場」という文書を公開しています。ここには、「我が国」の基本的立場として次のようなことが明記されています。
◎早期に、公正で永続的且つ包括的な和平が実現することを期待。
◎イスラエルと将来の独立したパレスチナ国家が平和かつ安全に共存する二国家解決を支持。
◎交渉によってのみ解決されるべきものであり、暴力は固く拒絶されなければならない。
つまり、日本は中東和平問題について、イスラエルとパレスチナのどちらに肩入れすることもなく、イスラエルの自衛権を認め、二国家が共存することを支持し、問題解決の手段としての「暴力の行使」に反対しているということです。
ところが、日本のメディアや「専門家」の立場は、これとは全く異なります。
彼らはパレスチナを強く支持して、イスラエルを憎悪・敵視しています。
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム過激派テロ組織ハマスの暴力の行使については、イスラエルの軍事力に比べて「圧倒的な差がある」と言って非対称性を強調することで論点をずらして擁護したり、あるいは「抵抗運動」だと賛美したりする一方で、イスラエルの自衛権を否定します。
2021年5月、ハマスがイスラエルに4300発以上のロケット弾を撃ち込み、イスラエルが報復する戦争が発生したことについて、NHKはウェブサイトの「中東解体新書」というコーナーにある「彼女が流した涙のワケ」という記事で、次のように解説しています。
「2021年5月、イスラエルとガザ地区の武装勢力の間で武力衝突が起きた。衝突は11日間におよび、イスラエルによる激しい空爆が行われたガザ地区では256人が死亡した」
NHKは、ハマスがイスラエルの民間人に対して無差別ロケット弾攻撃を行い、イスラエルの民間人12人を殺害したことには言及せず、イスラエル側が一方的にガザの民間人を虐殺したかのような印象を与え、ガザの人はかわいそうだと同情を誘うような書き方をしています。
加えてNHKは次のように解説します。
「軍事力には圧倒的な差がある。イスラエル軍は、最新鋭戦闘機や迎撃システムを備えるが、ハマスは、田畑や住宅街などからロケット弾などによる攻撃を仕掛けていると指摘される」
武装組織が民間人を無差別攻撃することは戦争犯罪であり、非難されるべきはずです。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は2021年8月、ハマスが5月に「イスラエルの都市に向けて無誘導ロケット数千発を発射したことで、無差別攻撃を禁止する戦時法に著しく違反した」と述べました。
HRWの中東・北アフリカ局長代理エリック・ゴールドスタインは、「ハマス当局はイスラエルによる侵害行為を指摘することで、民間人を無差別に殺傷する違法なロケット弾攻撃を正当化しようと試みるのをやめるべきだ」と批判しています。
ところがなぜかNHKは、ハマスがロケット弾という安い武器を使っており、イスラエルの「最新鋭の武器」とは「圧倒的な差」があるといってこれが非対称戦争であることを強調する一方、ハマスが民間人を標的に無差別攻撃を行ったことについては非難しません。
ハマスがエルサレムの守護者を自称しながら、守るべきはずのエルサレムに率先してロケット弾を撃ち込む矛盾についても、NHKは決して指摘しません。
エルサレムには守るべきはずのパレスチナ人も多く居住しています。NHKはもちろん、その矛盾も指摘しません。
「圧倒的な差」を強調するのは、こうした矛盾やハマスの戦争犯罪から人々の目を逸らすための常套手段です。
<本記事は飯山陽著『
中東和平問題への外務省とメディア・「専門家」の立場の違い
「軍事力に圧倒的な差がある」を理由に正当化されたロケット弾攻撃
1976(昭和51)年東京生まれ。イスラム思想研究者。麗澤大学国際問題研究センター客員教授。上智大学文学部史学科卒。東京大学大学院人文社会系研究科アジア文化研究専攻イスラム学専門分野博士課程単位取得退学。博士(文学)。『ニューズウィーク日本版』、産経新聞などで連載中。著書に『中東問題再考』『イスラム教再考』(以上扶桑社新書)、『エジプトの空の下』(晶文社)など。
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