プロレス素人だったライターの記事はなぜ炎上したのか【最強レスラー数珠つなぎ vol.1 佐藤光留】
――ハードヒットの“全試合グラップリングルール”興行、すごく面白かったです。
佐藤:年1回、やっているんですけど、最初企画したときは「気狂ってるのか?」と言われました。それこそプロレス女子の記事じゃないですけど、カッコいい選手が勝敗よりも内容で、派手な技と至れり尽くせりのファンサービスで女性のみなさまをお出迎え、みたいな時代に、寝技だけで興行をやるっていう(笑)。僕はいままで一回もハードヒットで赤字を出したことはなかったんですけど、勢いで言ったものの、さすがにこれはちょっと厳しいんじゃないかと思いました。やるって言ったときの不安な感じはいまでも覚えています。全身から汗が止まらなかったです。
――女性のお客さんも多いですよね。
佐藤:やってみたら、6割くらい女性だったんじゃないかな。選手も頑張って揃えたんで、みなさんから面白いと言ってもらえました。どうかしてるんだろうな、ニッポンと思いましたね(笑)。
――ハードヒットに来るお客さんの層はどういった人たちですか?
佐藤:世の中のはみ出し者じゃないですか(笑)。僕がやっているプロレスは、僕自身がやってきたことが滲み出てしまうので。プロレスって、その人の人格がすごく出るんですよ。役者さんとか、人前に出る人は絶対そうだと思うんですけど。興行のコンセプトが、「どうせ俺は人に認められてねえんだ」というスタートです。だったら、「認めさせてやるんだ」じゃなくて、「認められてないけど、俺はそのやり方を変えない」っていう。
だから来てくれているお客さんは、人生を肯定されている人たちばかりではないと感じます。ファンレターだったり、売店に来て「普段、自分は会社でこういう立場なんだけど、ハードヒットを見る度に勇気づけられる」と言ってくださるかたもいます。自分と重なる、みたいな。「この時代に寝技だけでやるなんて、どうかしてますよ」って言いながら、涙目で握手してくるんです。
――次回のハードヒットのPVで、グラップリングを“寝技”ではなく、“組技”と訳されています。
佐藤:レスリングでもよかったんですけどね。この間、『週刊プロレス』の表紙に、「世間とプロレスする」って書いてあったんですけど。プロレスって、だれでも出来ちゃダメなはずなんです。レスリングというものに関しては、だれでも出来ます。赤ちゃんでも出来るし、猫がじゃれ合っているのもレスリングです。でも、だれでも出来ないものをやることがプロのはずなのに、プロレスという言葉にしちゃってるんですよね。世間とプロレスは出来ないです。レスリングしないですから。そういう意味で、レスリングという言葉を僕は使いたかったんです。ただ、レスリングってすると、格闘技の人たちにとって意味合いが違ってくるし、今度の興行は「ベスト・オブ・スーパーグラップラーズ」なので、グラップリングは組技ということにしたんですけど。やっぱり僕はレスリングが好きなんですよ。ビジュアルも好きだし、ロジックも好きだし。これ以上好きなものはないですね。
――プロレス全体ではなく、レスリングが好き?
佐藤:レスリングのプロだからプロレスラー、という意味合いです。
――高校生のとき、レスリング全国3位だったんですよね。すごいですよね。
佐藤:すごいんですよ(笑)。普通はちびっ子レスリングって言って、小中学生からやっている人じゃないといけなかったですから。僕は高校から始めたんです。中学には格闘技の部活がなかったので、布団相手にレスリングをしていました。ベッドを何回も壊して。親にめちゃめちゃ怒られて。
――じゃあもう、才能があって、という感じですね。
佐藤:はい、僕は才能の塊です。35になって、ようやくみんな気づき始めました(笑)。もっと才能がある人でも辞めちゃう人も多かったんですけど、結局、どれだけ好きで、辞めないかっていうことが大事だと思います。だって、面白いと思って書いた文章が、いきなりプロレスラーに「書いた奴、ぶっ殺すぞ」みたいなことを言われるわけじゃないですか(笑)。それでも辞めないっていうのは、好きだからですよね。辞めないということが、一番強いことだと思います。
尾崎ムギ子/ライター、編集者。リクルート、編集プロダクションを経て、フリー。2015年1月、“飯伏幸太vsヨシヒコ戦”の動画をきっかけにプロレスにのめり込む。初代タイガーマスクこと佐山サトルを応援する「佐山女子会(@sayama_joshi)」発起人。Twitter:@ozaki_mugiko
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