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ECWが田中将斗にスタンディング・オベーション――フミ斎藤のプロレス読本#124【ECW編エピソード16】

ECWが田中将斗にスタンディング・オベーション――フミ斎藤のプロレス読本#124【ECW編エピソード16】

『フミ斎藤のプロレス読本』#124は、ECWのPPV“リビング・デンジャラスリー”にゲスト出場した田中将斗の1泊3日の“弾丸ツアー”から(PhotoCredit:Linda Roufa)

 199×年  田中将斗は、FMWのロゴがプリントされたスポーツタオルを両肩にひっかけて、のしのしと大股で花道を歩いていった。観客の目の高さよりも一段分だけ高く設営された入場ランプとリングとが“T”の字に結ばれてる。  反対側のコーナーには、対戦相手のダグ・ファーナスと悪党マネジャーのランス・ライトが立っていた。  そこにいるすべての観客の視線が自分の体に突き刺さっていることが田中にはよくわかった。ためしにセカンドロープに乗っかって、タオルを手にFMWのロゴをアピールするようなしぐさをしてみたら、リングサイド席のお客さんたちがいっせいに立ち上がって大きな拍手をしてくれた。  スタンディング・オベーションというやつである。ECファッキンWの観客は、“マサト・タナカMasato Tanaka”がライヴの試合なんてそうめったにはお目にかかれない、地球の裏側からやって来たプロレスラーなのだということをちゃんとわかっていた。  それほど緊張はしなかったけれど、まわりの音はまるで聞こえなかった。試合だけに集中していたといえばそういうことになるし、余裕がなかったといえばやっぱりそういうことにもなる。  技をかけるタイミングをけっこう失敗した。最後は“弾丸エルボー”で無理やりフォールを取りにいった。アリーナ席のまんなかあたりに図形みたいな漢字で“田中”とつづられたサイン・ボードが揺れていた。  出番はあっというまに来て、あっというまに終わった。試合を終えた選手たちは、バックステージでTV番組用のインタビュー収録をはじめていた。試合は終わっても仕事はまだたくさんある。リング上とバックステージとで時間差ドラマが同時進行している。  PPV放映のタイムテーブルに合わせて秒刻みでみんなが動いている。ポール・Eが血相を変えてドレッシングルームから飛び出していった。試合中にリングの床が抜けてしまったらしい。  時計の針は午後10時をまわっていた。全米生中継のピリピリの空気がやっと一段落したと思ったら、こんどは翌週オンエア分のTVインタビューの収録がはじまった。
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田中は、ほかのボーイズの動きをなんとなくよこでみていた
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