「東海テレビは、いつのまにか“猛々しい”イメージになっていた」プロデューサーが語る映画『ヤクザと憲法』撮影裏話
――そんな東海テレビの代名詞となっている『ヤクザと憲法』ですが、改めて制作の経緯を教えてください
阿武野:いつも、ディレクターが取材したい題材を、僕のところに持って来るというスタイルです。『ヤクザと憲法』も監督の圡方宏史君が愛知県警の捜査4課の担当記者だった経験から「ヤクザは早晩絶滅するので今のうちに取材してみたい」と言ってきたんです。
最初はヤクザが主眼で、憲法は特に意識していませんでしたね。しかし、実際に取材に入ってみたら暴排条例とか暴対法が出てくるわけです。たとえば、今のヤクザはアパートも借りられない、銀行口座も作れいない、果ては子供の通園を幼稚園に断られる。そうなると、これは人権問題なわけで、法の下の平等、憲法に抵触しているのではないか、と。手ぶらで取材に行ったら問題に突き当たっていった。それを映像記録としてまとめたということです。
――そういえば『ヤクザと憲法』で密着した大阪の二代目東組の幹部が11月に、大麻取締法違反で逮捕されましたが、関連はあるとお考えですか……?
阿武野:うーん、直接確かめていませんが、作品とは関係ないと思いますよ。取材対象は東組の二次団体の二代目清勇会ですし、その事案は奈良県警の摘発でしょ。映画公開に関連して、僕たちと大阪府警、清勇会とは一悶着ありましたが、映画公開からもうすぐ一年ですし、映画が原因で奈良県警に逮捕されたということはないでしょう。
書籍版『ヤクザと憲法』(東海テレビ取材班/岩波書店)を10月末に出版しました。取材に迷う記者の心持ち、取材対象を取り巻く難しい問題など、結構あからさまに出しましたが、特段のトラブルはないですしね。
――予算面でスポンサーが付くことはありますか?
阿武野:ケースバイケースです。『ヤクザと憲法』はノースポンサーです。報道局のなかにドキュメンタリーのための予算があるので、スポンサーがないから作れないということはないですね。ただ、映画は宣伝費がかります。宣伝費は会社から出してもらわないとできません。企画を通す段階で「制作費はゼロです。きっと儲かります」と言い切れば、とてもいい会社なんで「じゃあトライしてみなさい」と言ってくれます(笑)。
――すごい考え方ですね……
阿武野:多少の方便はあってもいいんじゃないですか。だって、儲かりますっていう仕事の多くは、実際はほとんど儲かってないですからね。
劇場公開第1弾の『平成ジレンマ』のときは、公開直後に3.11の大震災が発生しました。あの非常時に教育について考える映画を観ている場合じゃなくなった。「これは大赤字になる。まずい」と思いましたが、単館映画は入場者数が確定するまで半年から1年くらいかかります。
じゃあ、結果が出るまでにやれるだけやってしまおうと。そう思っていたら、3本目の『死刑弁護人』にたくさんお客さんが入ってくれました。ヒットですね。話題にもなって、会社にも良い噂が入りますから、いい回転になるわけです。そうなると、一作目の赤字はどのくらいだなどと誰も言わない。そんなふうに、今までなんとかやってきました。
『ヤクザと憲法』 「暴排条例」は何を守るのか |
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