「東海テレビは、いつのまにか“猛々しい”イメージになっていた」プロデューサーが語る映画『ヤクザと憲法』撮影裏話
――では、今度公開される新作『人生フルーツ』について、監督の伏原さんから制作の経緯を教えてください
人生フルーツ』
’17年1月2日(月)よりポレポレ東中野にてロードショー、ほか全国順次公開
伏原:僕らは普段、ニュースの仕事をしています。その中で、高齢化社会の問題は定番のネタです。しかし、年を取るととんでもないことになるとか、切り口も内容的に暗く伝えがちなんです。そうじゃなくて自分がこうなりたい、お手本にしたくなるような明るくて楽しいものがないかと思って調べていると、地方紙とか雑誌に出ていた津端さんご夫婦に辿り着きました。
――これまでの作品の中でも『人生フルーツ』は、ほっこり系のドキュメンタリーという印象がありますね
伏原:人生フルーツの取材中は、ちょうど『ヤクザと憲法』が話題になっていた頃で、対照的というか、ホントに何も起きないんです。でも逆に何にも起こらないものもアリなんじゃないかと思って作りました。
圡方も『ヤクザと憲法』の取材に行ったとき、事務所には拳銃があってドンパチやってるとか、抗争事件をイメージしていたらしいけど、「ごくごく普通で何にも起こらない」と言っていました。テーマや対象の違いはあっても、同じ人間を描くことや制作手法に違いはないと改めて思いましたね。
――これまでにもナレーションで樹木希林さんを起用したことはありますが、今回改めてオファーした経緯を教えてください
伏原:撮影が終わった段階で、阿武野さんから樹木希林さんでいこうと聞かされました。だから、希林さんありきで編集しました。希林さんの声の力はよく知っていたので、あえてナレーションを少なくしました。呪文のような短いフレーズを繰り返すことで、逆に印象が残るようにしました。
――次回作の構想があればぜひお聞かせください
阿武野:内容は明かせませんが、テレビドキュメンタリーは年間数本作っていますし、映画化は編集が少し進んだところで決めています。1年に1本か2本ぐらい映画にできて、ドキュメンタリーの面白さを全国の皆さんに届けられたらと思います。
それで、さっき伏原君も言ってましたけど、『ヤクザと憲法』と『人生フルーツ』の制作姿勢は同じなんです。人間を描く事はなんら変わらない。それなのに東海テレビのレッテルは「猛々しい」とか「境界を超える」とか。そんな気持ちはまったくないんですが(笑)。『人生フルーツ』観てもらえれば、なんと豊かな表現集団なのかとわかってもらえるとおもいます。
物事には多様性とグラデーションし、人間は多面体であるのに、一方向からしか光を当てないで決めつけのはおかしいですよね。たとえば、光市母子殺害事件では被告弁護団に対するメディアスクラムが問題になりました。
僕たちがその弁護団に密着取材したテレビドキュメンタリー『光と影』では、裁判所に入廷していく被害者家族をメディアが一斉にカメラを向ける場面を、あえて被害者家族の背中越しにメディアの列に向かっていく様子を撮影しています。
本来、オリジナリティのある映像を撮ろうとするのが、表現者の特性だと思うんで、「みんな同じ」アングル、取材であることは嫌なはずなんですが、今のメディア人はそうでもないんですね。突出して失敗するより、みんなと同じほうを選択する。『光と影』のこの取材は、今の報道の象徴的な場面だったと思います。
今は世の中みんなレッテル合戦ですよね。こんな状況だと、もし、大きな“濁流”がやって来たら、みんな一斉に流されてしまうようで恐ろしいですね。そうならないように、『人生フルーツ』のようなドキュメンタリーを楽しみながら観て、多様な視点で生きていくヒントにしてほしいと思います。
<取材・文/永田明輝 写真提供/東海テレビ>
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『ヤクザと憲法』 「暴排条例」は何を守るのか |
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