ターナー社がWCW“身売り”を模索――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第331回(2000年編)
WWEがWCWを買収した場合、アメリカのプロレス経済はどう変わるかというシミュレーションがはじまった。
ここでいうシミュレーションとは、客観的なデータと客観的なデータの足し算を意味する。ターナー・エンターテインメント社サイドは(1)子会社WCWの“身売り”と(2)そのテレビ番組の放映権・著作権に関する交渉をまったく異なるふたつのビジネス・ディールととらえていた。
ターナー・エンターテインメント社は、WCWの“身売り”が成立後も“マンデー・ナイトロ”をはじめとする各番組をTBS(ターナー・ブロードキャスティング・システムズ)とTNT(ターナー・ネットワーク・テレビジョン)の2局が従来どおり継続して放映することを強く主張していた。
つまり、プロレスの興行会社としてのWCWは親会社から切り離しても、映像ソフトとしてのWCWは手放さない。これがターナー・エンターテインメント社が示した基本合意案の骨組みになっていた。
WWEはもともと興行会社だから、すでに経営面でガタガタになっていたWCWの興行部門の買収にはまったくといっていいほどメリットがなかった。
いっぽう、WWEの映像=テレビ番組に関しては、“ロウ・イズ・ウォー”をはじめとする主要3番組を当時、全米中継していたTNN(ザ・ナショナル・ネットワーク)の親会社バイアコム社がその放映権を独占契約。
バイアコム社はCBS、TNN、MTV、ニコロディアン、VH-1、UPN、ショータイムなど大手テレビ局数社、ラジオ局、出版社などを傘下に抱える巨大企業で、同グループはWWEの株式3パーセント(当時)を保有していた。
もし仮にWWEによる“WCW買収”が成立したとしても、この時点ではWCWのテレビ番組はTBSとTNTに残留する可能性がきわめて高く、ビンス自身が望んでいた2団体の映像上の――テレビ番組としての――合体は予想以上にハードルが高く、そうかんたんには実現しないことがはっきりしてきた。
また、WWEとWCWはそれぞれが“原告”“被告”となって係争中の裁判を何件か抱えていた。この問題もWWEによるライバル団体買収-吸収合併案を複雑にしていた。
WWEとWCWの“大型合併”の障害となるさまざまなイシューの根底にあるものは、どうやらニューヨーク・メディアとアトランタ・メディアの経済摩擦だった。
じつはビンスにっとっていちばんカンタンなオプションは、WCWが倒産―消滅してくれることを「なんにもせずに待っている」ことだった。
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ
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