更新日:2017年06月19日 16:34
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二度と戻らない、部屋住み・シンの“最後の一日”【沖田臥竜が描く文政外伝!~尼崎の一番星たち~】

「そしたらカシラ、ここにサインしてくれ」  所轄の暴力団担当刑事に呼ばれ私は、警察署へと来ていた。シンの身内と連絡がつかなかったので、司法解剖から帰ってきたシンを引き取る為に、知り合いの葬儀屋と所轄に呼ばれていたのだ。  死亡証明書にサインし、持参するように言われていたハンコをついた。 「ほんならカシラ、後頼むど。大変やろうけど協力してくれや」  現場に一番に辿り着いた私は、事件当日から参考人として、連日事情聴取を受けていた。 「はい」  と答え、私は所轄を後にした。  その帰り道で、文政に連絡を入れた。 「もしもし、兄弟か。シンが死んでもうたわ」  文政は何も言わなかった。本部での殺人は大きく世に知れることになっていたので、文政の耳にも届いていたのだろう。 「シンの淹れるコーヒー美味かったの」  文政がボソリと呟いた。 「ああ、美味かった」 「落ち着いたら、兄弟連絡くれるか。ワシにも線香あげさせたってくれよ」 「ああ分かった。有難うな兄弟。また連絡いれる」  そう言って電話を切ったのだった。  ヤクザで生きる以上。殺されるのも殺すのも覚悟の上だ。しかしすべてのヤクザがそういった局面に対峙することになるかというと、そうではない。そして、対峙させられたとしても、現実を受け入れるには、誰しも時間がかかるものではないだろうか。  シンが死んだ。そう思えるようになったのは、いつからだろうか。  見上げた空から容赦なく降り注ぐ太陽の陽射しは、益々激しさを増し始めていた。オレは立ち止まり、手の甲で額に溜まった汗を拭ったのだった。  夏のど真ん中。シンはヤクザで、この世に別れを告げていった。  6年前のあの夏。確かにオレはヤクザだった。ヤクザとして生きていた。あの夏、一つの星が輝きながらながれていった。(全て実話である) 【沖田臥竜】 76年生まれ、兵庫県尼崎市出身。元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、RーZONEで連載。「山口組分裂『六神抗争』365日の全内幕」(宝島社)に寄稿。去年10月、初の単行本『生野が生んだスーパースター男、文政』(サイゾー)を敢行した。5月19日には、大阪ミナミのロフトプラスワンウエストでトークライブを開催予定。
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生野が生んだスーパースター 文政

ヤクザ、半グレ、詐欺師に盗っ人大集合。時代ごときに左右されず、流されも押されもしない男達が織りなす、痛快ストーリー。

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