マイケル富岡「80年代はマイテープに自分のDJを入れて彼女にプレゼントしてた」
石原:カセットテープからカセットテープに録音できるダブルカセット付きですよね! 私は1982年、大学進学をきっかけに関東へ来たんですけど、真っ先に買いに行ったのがミニコンポ。それでマイテープ(※4)を作って女のコと一緒に聴くのが夢でした(笑)。
マイケル:わかる! 恥ずかしい話なんだけど、そのマイテープに僕の場合、自分のDJを入れちゃってた。彼女のために世界でたった一つのテープを作ってた。
一同:大爆笑。
石原:DJは英語で?
マイケル:オフコース! 制作中はいろいろストーリーを組み立ててたね。どの曲から始まって、どこでバラードを入れるか。B面のラストはどうするか? 最後のセリフは「愛してる、おやすみ」みたいな。今、思い出しただけでも鳥肌が立っちゃう(笑)。
ゴメス:マイケルさんも僕らと似たようなことをしていたんですね。なんとなくホッとしました。
マイケル:ドライブのストーリーを妄想しながら作ってた。134号(※5)を流しながら、このあたりでこの曲をさり気なくかけて、といった感じの綿密なシミュレーションは欠かせなかった。もし、渋滞にハマったりしたら、同じテープがエンドレスで流れちゃうから、プランが台なしになっちゃうんだけど(笑)。僕の中では、実際に会う前からデートは始まっていた。今思えば、妄想しながらマイテープをせっせと作っている時間のほうが楽しかったかも……。
ゴメス:今のコたちは、iTunesストアで視聴しながら一曲ごとに音楽を購入しちゃったりするのでジャケ買いの失敗もわからないし、iPodのシャッフル機能で適当に流しているから、いろいろな曲を組み合わせてストーリーを構成するって感覚が、わからないんじゃないかな?
石原:マイテープひとつとってもこんな感じなので、モテや恋愛にかけるエネルギーの総量がすごかった。冷静に振り返れば、ほとんど空回りだったんですけど(笑)。
ゴメス:さぞかし迷惑(※6)だったでしょうね、俺らの独りよがりなマイテープをもらった女のコは……。
(※1)ウォークマン
ソニーのヘッドホンまたはイヤホンで聴く、携帯用小型カセットテープのステレオ再生装置の商標名だが、当時はほぼ一般名詞として使われていた。付属品のヘッドホンの遮音性が今よりも低かったことによる電車内での音漏れや、一人の世界に入り込んでしまったがゆえの自己陶酔などが、深刻な社会問題となっていた
(※2)アイワ
小型音響機器を主力とした20世紀後期の電機メーカー。2002年、ソニーに吸収合併される
(※3)ミニコンポ
レコードプレーヤー、アンプ、チューナー、カセットデッキ、スピーカーなどがセットになった音響機器のこと。「ミニ」とはいえ、狭い部屋なら壁の3分の1ほどの面積が占領されてしまうほどの大きさで、今なら1万円以下で購入できるBluetoothスピーカーよりも性能面で劣っていた
(※4)マイテープ
「貸しレコ」やラジオの「エアチェック」などを音源に、手っ取り早く自分だけのカセットテープを作るのが、いわゆるマイテープ。デート前夜に、徹夜してマイベストを作った経験がある人もいたはず。上級者は、タイトルなどを手書きではなくインレタ(インスタントレタリング)で作っていた
(※5)134号
神奈川県横須賀市から大磯町まで、湘南の海岸線を走る一般国道。当初は「湘南海岸道路」という名称で有料道路だった。七里ヶ浜海岸駐車場は、かつての料金所を駐車場にしたもの。横須賀、葉山、逗子、鎌倉、藤沢、茅ヶ崎など、海を見ながらのドライブに最適
(※6)さぞかし迷惑
マイテープ制作側(=男側)の妄想が強くなればなるほど選曲は偏り、迷惑度も増していった。後日「テープどうだった?」と聞くと「う、うん……すごくよかった」というあいまいな返答の場合、「ダメ」もしくは「まだ聴いてない」というサインだった
【マイケル富岡】
1961年米国ニューヨークでアメリカ人の父と日本人の母の間に生まれる。ハイスクールの頃から、モデルとして活動。1985年「MTV」のVJに起用される。音楽分野のほか多くのバラエティ番組で活躍する一方、NHK大河ドラマ『信長』に明智光秀役で出演するなどマルチタレントとしても活動。イベント司会など広い分野で活躍する
【山田ゴメス】
1962年大阪府生まれ。ライター&イラストレーター。画材屋勤務を経てフリーランスに。エロからファッション、音楽、美術評論まで精通。『日刊SPA!』でゴメス記者として多視的なコラムを配信中。著書に『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)、『クレヨンしんちゃん たのしいお仕事図鑑』(双葉社)
【石原壮一郎】
1963年三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。『大人の女養成講座』『大人力検定』『大人の合コン力』などなど、大人をテーマにした著書を多く発表し、メディアで活躍。日本の大人シーンを牽引している。「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める
構成/80’s青春男大百科編集部 撮影/林紘輝(本誌) ヘアメイク/久野友子 写真/産経新聞社
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