伝説的フュージョンバンド・元カシオペアの向谷実が80年代を振り返る「浮かれた状態は長く続かないと確信していた」
あの伝説的フュージョンバンド・カシオペアのキーボードとして、一時代を築いた向谷実(60)。現在は「音楽プロデューサー」「作曲家」だけではなく、「実業家」「コメンテーター」の顔を持ち、「鉄道タレント」としても活躍する彼はどのような思いで80年代を駆け抜けたのか?そう尋ねると、驚くほどクールな語り口であの熱狂の時代を振り返るのだった――
――80年代に入り、カシオペアの名は一気に日本中に広がっていくことになりました。向谷さんご自身は「ブレイクの潮目」を実感した瞬間はありましたか?
向谷:「ブレイクした」という実感はそうないんですが、80年代に入って。初の全国ツアーを行ったあたりから、ライブに来てくださるお客さんの質が変わってきた印象は確かにありましたね。女性ファンが会場の半分近くを占めるようにもなってきて……。それまでは男ばかりで、拍手の前にヒソヒソと「解説」が始まるんですよ。「さっきのフレーズはこうこうこうで、こういう効果を狙っていたんだよ……」とかって(笑)。そんな大人しいお客さんたちが、やがて控えめに立ち上がる人も出てくるようになり、それがそのうち全員になり、挙げ句には地方だとステージになだれ込んできちゃうまでにエスカレートしていきました。もちろん、インターネットもないあのころに、ほとんど口コミだけであれだけの人が集まってくれたわけですから、それは単純にうれしかったし、ファンのみなさんには今でも本当に感謝しています。
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――なぜカシオペアがそこまで80年代の若者の支持を受けたのか、向谷さんの見解をお聞かせください。
向谷:うーん、もっと売れているバンドはほかにもたくさんあったんですけどね……。強いていうなら「インストゥルメンタルといった演奏スタイルがドライブとかにも向いていたから」じゃないのかな? しかも、少しだけ通っぽくて(笑)。あと、「エアチェック」がちょうどはやっていたのも大きかったと思います。「ちょっと通っぽいインスト」って、FMでも流しやすいんですよ。実際、リスナーの方々から、リクエストも多くいただいていたようですし。
――時代背景的な影響は?
向谷:若い世代が“新しい楽しみ”、自分の好きなものを必死に模索し、日本人の価値観も多様化し始めた時期に「一風変わった編成のバンド」がハマった、というのはあるかもしれません。
――まずは80年代に突入する以前、1977年に向谷さんがキーボード担当としてカシオペアに参加した当時、日本の音楽事情はどういった様子だったのでしょう?
向谷:まだ「歌のないバンド」が、リスナーだけじゃなく業界内でも珍しい存在とされる時代でした。ましてや全国ツアーまでやるなんて、あり得なかった。テレビに出たら「今日の歌のお客様です」と紹介され、「歌はないんですけど……」とオチがつき、ラジオに呼ばれたら「ボーカルは誰ですか?」と真剣に質問されたり、そういう日々の繰り返しで……。
――「ボーカルを入れない」というスタイルには、強いこだわりがあった?
向谷:いや、「メンバーにたまたまボーカルをできる人間がいなかっただけ」なのが、正直なところです。いたら、たぶん「歌のあるバンド」になっていたんじゃないかな? 「売れるための戦略」的なものも、あまり深くは考えていなかった。ジャンルだって、僕らにいたっては「ジャズ」「フュージョン」「クロスオーバー」と、勝手にいろいろカテゴライズされていたし……。最初のレコードのオビには「ニューミュージック」と書かれていました(笑)。メンバー全員が、とにかく楽器にワガママでしたね。16ビートのリズムを刻み、その上にわかりやすいメロディを、さり気なくお洒落なハーモニーで乗せる「弾くのは難しいけど、聴くにはやさしい音」をひたすらストイックに追求する……本当に僕たちが考えていたのは、ただそれだけでした。
「ちょっと通っぽいインスト」が人気に
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大阪府生まれ。年齢非公開。関西大学経済学部卒業後、大手画材屋勤務を経てフリーランスに。エロからファッション・学年誌・音楽&美術評論・人工衛星・AI、さらには漫画原作…まで、記名・無記名、紙・ネットを問わず、偏った幅広さを持ち味としながら、草野球をこよなく愛し、年間80試合以上に出場するライター兼コラムニスト&イラストレーターであり、「ネットニュースパトローラー(NNP)」の肩書きも併せ持つ。『「モテ」と「非モテ」の脳科学~おじさんの恋はなぜ報われないのか~』(ワニブックスPLUS新書)ほか、著書は覆面のものを含めると50冊を超える。保有資格は「HSP(ハイリー・センシテブ・パーソンズ)カウンセラー」「温泉マイスター」「合コンマスター」など
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