これがそうだとしたらスターなんて退屈じゃん――フミ斎藤のプロレス読本#105【ショーン・ウォルトマン編エピソード5】
シックス、というよりもショーンは、プロレスさえあればほかにはなにもいらない人間である。
バックステージをほっつき歩いているといろいろな人たちとすれちがう。体じゅうからプロレスの香りを発散させている人たち。てんでそうではない人たち。プロレスのそばにいるだけで幸せそうな顔をしている人たち。どうしてそこにいるのかわからないような顔をしている人たちもいる。
バックステージは迷路のようなところだから、ショーンはシックスが迷子にならないように気をつけながら居場所を探して歩きつづける。
これがほんとうにだれもがあこがれるスターダムというものだとしたら、スーパースターとやらはけっこう退屈じゃん、とショーンは考える。
くねくねと折れ曲がった迷路をすすんでいくと、入場ランプにつながる黒いカーテンの裏側に出る。そおっとカーテンを開けてアリーナのほうをのぞいてみると、だれもいないリングとソールドアウトの観客席が目に飛び込んでくる。あそこまで走っていけばプロレスができるのである。
子どものころからなりたいなりたいと思っていたものにはもうなれたのかもしれない。立派なチャンピオンベルトだって手に入れたし、毎週月曜の夜にテレビのスウィッチを入れれば必ずシックスとその仲間たちが画面に現れる。
そういうシチュエーションをつまらないなんていうつもりはない。でも、WCWとWWEの“月曜TVウォーズ”はプロレスというジャンルそのものを連続ドラマに変えてしまった。
ないものねだりといわれてしまえばそれまでのことなのかもしれないけれど、やっぱりクタクタ、ヘトヘト、ボロボロになるまで思う存分プロレスをやって、家に帰ったらなにも考えずにぐっすりと眠りたい。
ショーン=シックスが求めているのはただそれだけなのだ。
※文中敬称略
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文/斎藤文彦
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