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前田日明 時空を超えて無限大につらなる輪RINGSのひとつめの輪――フミ斎藤のプロレス読本#155[前田日明編・後編]

前田日明 時空を超えて無限大につらなる輪RINGSのひとつめの輪――フミ斎藤のプロレス読本#155[前田日明編・後編]

『フミ斎藤のプロレス読本』#155 前田日明編(全3話)後編は「前田日明 時空を超えて無限大につらなる輪RINGSのひとつめの輪」の巻(写真はファイティング・ネットワーク・リングス『ワールド・メガバトル・オープン・トーナメント キング・オブ・キングス』オフシャル・パンフレット表紙から)

 2002年  前田日明の姿をとにかく目に焼きつけておこうと思った人びとがそこに集まっていた。  定番の真っ赤な“審議委員ジャケット”を着た前田は、第1試合からリングサイドにでんと陣どり、観客はつねに前田の視線といっしょにリングの上の闘いを目撃していた。これがリングスのいちばん基本的な観戦モードである。  イベント名は“ワールド・タイトル・シリーズ~グランド・ファイナル~”。前田自身のコメントをそのまま借りれば「第一次リングスの最後の興行となってしまった」大会のメインイベントには、無差別級王者トーナメント決勝戦という大きなドラマの“最終回”が用意されていた。  もう現役選手ではなくなった前田がロープをくぐってリングに上がるたびに、会場のあちこちから男性ファンの「マエダーッ!」という訴えかけるような声援が響いた。  1980年代後半に青春時代を過ごした世代のプロレスファンは、前田がいつかはアントニオ猪木をやっつけてプロレス界の頂点に立ってくれるものと固く信じていた。  UWFファンはプロレスに対してちょっとナイーブだった。けっきょく、前田とその仲間たちは新日本プロレスと袂を分かった。  厳密にいうと、“プロレスラー”前田は“プロレスラー”長州力の顔面を蹴って新日本プロレスから解雇された。“解雇”というどこか事務的な音感の単語が妙に新鮮だった。  第二次UWFが発足したのが1988年(昭和63年)4月で、大ブームのなかでの前田による“解散宣言”がそれからわずか2年9カ月後の1991年(平成3年)1月。  プロフェッショナル・レスリング藤原組、UWFインターナショナル、リングスの3団体に分裂した“U系”のなかで旗揚げ興行がいちばん最後になったのが91年4月にスタートを切ったファイティング・ネットワーク・リングスで、設立時の所属選手(リングス・ジャパン)は前田ひとりだった。  “リング=闘いの舞台”の複数形にあたるリングスという団体名称は、世界じゅうの格闘技をひとつのネットワークで結ぶという壮大なテーマを表していた。  団体プロデューサーになった前田は、ありとあらゆる格闘技のエッセンスを統一ルールのもとに日本のリングに結集させるという、まるで梶原一騎の劇画のようなコンセプトをほんとうに実用化してしまった。  横浜文化体育館には前田のことが大好きなオトナの少年ファンが集っていた。UWF時代からの前田信者。リングスをずっと見守ってきた前田シンパ。そして、それぞれの時代ごとの前田ウォッチャーたち。  “前田日明”というフィルターを通してプロレスと自分との関係をずっと考えつづけてきた純粋なプロレスファンがこの国にはたくさんいる。  前田が10年がかりで構築したリングスの格闘技が結果的にプロレスとは異なるジャンルに姿を変えてしまったとしても、前田ウォッチャーは前田ウォッチャーであることをやめない。 「みなさん、安心してください。自分が試合をするところはリングスです」  高阪剛がマイクをつかんだ。キーワードは“安心”だった。 「リングスのおかげで格闘家として成功することができました。前田さんに深く感謝します。また試合があるときは、われわれリングス・ロシアが兵隊のように飛んできます。また呼んでください」  “魔術師”ヴォルク・ハンがマイクを手に戦友・前田の功績をねぎらった。どうにもならないセンチメンタルな空気がリングを支配した。
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前田からのメッセージはどこかそっけなかった
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※斎藤文彦さんへの質問メールは、こちら(https://nikkan-spa.jp/inquiry)に! 件名に「フミ斎藤のプロレス読本」と書いたうえで、お送りください。

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