スポーツ

はるかかなたから眺める東京ドームのプロレス――フミ斎藤のプロレス読本#165[新日本プロレス199X編10(最終回)]

 武藤は「当然の結果」という顔でリングを下りた。天才が天才ぶりを発揮するのはこういう不機嫌なシチュエーションなのだろう。  リングの上にはタキシード姿のアントニオ猪木が立っていた。あいさつのスピーチはやっぱり「元気ですかーっ」からはじまった。  小川直也はNWA世界ヘビー級王座のチャンピオンベルトを肩から下げて花道に登場してきた。橋本真也はなぜか“闘魂伝承”のロングガウンを身にまとって観客のまえに現れた。  入場シーンは小川、橋本の順で、田中秀和リングアナウンサーによる選手紹介のコールは橋本、小川の順。小川は“猪木の目”で橋本をにらみ、橋本は小川の向こう側にいる“猪木の目”だけをにらんでいた。  殴り合い。蹴り合い――。一瞬一瞬のコンタクトがいやに長く感じられた。猪木がリング内に乱入し、小川を突き飛ばした。次の瞬間、試合終了のゴングが鳴っていた。  小川のTKO勝ちをコールしたのはこの試合の特別レフェリーをつとめた藤波だった。  数秒後、こんどは橋本と猪木がリング中央で抱き合いながら涙を流しているシーンが液晶ビジョンに映し出された。 「ハシモトー!お前はバカだー!」  男性ファンの悲痛な叫びがまたドームの天井に突き刺さった――。(THE END) ※文中敬称略 ※この連載は月~金で毎日更新されます 文/斎藤文彦
1
2
※斎藤文彦さんへの質問メールは、こちら(https://nikkan-spa.jp/inquiry)に! 件名に「フミ斎藤のプロレス読本」と書いたうえで、お送りください。

※日刊SPA!に掲載されている「フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー」が『フミ・サイト―のアメリカン・プロレス講座』単行本になり、電波社より発売中です

フミ・サイトーのアメリカン・プロレス講座 決定版WWEヒストリー 1963-2001

WWEはいかにして世界を征服したのか?幾多の危機を乗り越え、超巨大団体へと成長を遂げたその歴史を克明に描く「WWEの教科書」

おすすめ記事