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ゴッチ先生が教えてくれた“いかに生きるかHow to be a man”――フミ斎藤のプロレス読本#004【プロローグ編4】

ゴッチ先生が教えてくれた“いかに生きるかHow to be a man”――フミ斎藤のプロレス読本#004

新連載コラム『フミ斎藤のプロレス読本』プロローグ04は、プロレスラーの“強さ”と“実力”と選手育成のメソッドに関する一考察(Photo Credit:Fumi Saito)

 199X年  “だれがいちばん強いか”が大きなテーマになっていた時代があった。もちろん、日本のプロレス界でのおはなしで、アメリカでは――考えてみれば不思議なことではあるが――ファンのあいだでも関係者のあいだでもこの“だれがいちばん強いか”が論じられることはあまりない。  英語の“ストロングstrong”と日本語の“強い”は一般的には同義語とされているが、じつはそのニュアンスには微妙なちがいがある。  “ストロングstrong”はまず〔物理的、身体的に〕強いこと、力が強いことを指す形容詞。〔精神力・知力が〕強い、信念が堅い、意志が強いなどはあくまでのふたつめの定義で、そのあとは〔茶・酒・薬などが〕濃い、〔小麦粉などが〕粘り強い、といった意味がある。  日本語の“強い”は、辞書を引いてみると、相手〔困難や障害〕に打ち勝つすぐれた能力がある様子、勢いがあってなかなか衰えないこと、とある。どうやら、日本語の“強い”はその精神性のほうが先にくるようだ。  プロレス用語における“強い”は、“実力”という単語に置き換えることができる。ここでいう実力とは、レスリングの強さとかケンカの強さとかを意味することもあるし、リングの内外でのいろいろな実力を指す場合もある。  英語でレスリングの強さとかケンカの強さとかを形容しようとすると、“ストロングstrong”ではなく“タフtough”という単語を用いることになる。  この“タフ”なるいいまわしこそ、どうやらプロレスラーにとって最高の賛美のことばになるらしい。レスラー仲間から「あいつはタフガイ」と呼ばれればストリートファイト、殴り合いのケンカの強さを認められていることを意味する。  レスリングそのものが強いこともタフガイの範ちゅうに入り、単純に腕っぷしの力だけが強いこと、バーベルを挙げるような力が強いときはストロングという形容詞があてはまる。  あのプルーザー・ブロディは、タフガイであるかタフガイでないかをひとつの基準にして同業者=プロレスラーに対する評価を決めていた。  アメリカのプロレスラーは基本的にふたつのタイプに分類することができる。ひとつは――ブロディがそうであったように――リングの上であろうが、ドレッシングルームであろうが、道ばたであろうが、タフガイでなければならないと考えるタイプ。  もうひとつは、あくまでもリングのなかで起きていることだけがプロレスラーの価値を決定づけると考えるタイプ。つまり、パフォーマーとしての才能がプロレスラーとしての才能であるという考え方だ。
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プロレスラーは非常になりにくい職業だった
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