映画監督・松江哲明が教える今こそ見たい名作「ロマンポルノ」5選
年末年始はロマンポルノばかり観ていた。尺とセックスシーンの回数さえ守れば作り手の自由が許されるこの奇跡のような作品群を今、見直しておきたかった。2017年の映画は世評と僕の好みが離れているな、と思わされることが多かったからかもしれない。
ロマンポルノを見始めたのは中校生の頃だが、最初はレンタルビデオだった。きっかけは石井隆監督の『死んでもいい』。永瀬正敏を目当てに観たのだが、役者を追いつめるかのような長回しと、美しいセックス描写と血の表現に「今まで観た日本映画とは違う」と感じた。石井監督のことを調べると劇画とロマンポルノを手がけていたことが分かった。
古本屋とレンタル屋を回り、監督の名があるものを探しまくった。その時に出会った強烈な1本が『ラブホテル』。久々にBDで見返したが、改めてロマンポルノという枠から生まれ、それを超えようとする作品だと思った。本作では山口百恵の「夜へ」が、村木と名美という石井作品では決して結ばれない運命の男女のテーマ曲となる。
相米慎二監督の作品はシーンごとの演出は圧倒的だが、映画としては破綻することが少なくない(そこが魅力でもある)。しかし本作は最小限の登場人物とシンプルな脚本、無駄の許されない製作環境が良い方向に働いたのではないだろうか。僕は相米監督の全作品の中でも屈指の完成度だと思う。
村木の別れた(それでも離れられない)妻と、名美がすれ違い、視線を交わす瞬間、桜の花びらが舞い散り、子どもたちが一斉に遊び回るクライマックスは「映画ならではの飛躍」を実感させてくれる名シーンだ。僕はこのシーンを観る度に初めて観た時の感動を思い出す。
ポルノというルールがあったからこそ異様な迫力を持ってしまった例が『昼下がりの女 挑発!』だ。まず物語がぶっ飛んでいる。夫と喧嘩をして家を飛び出した女が車で男を跳ねてしまう。お詫びに食事を誘うが彼はそっけない様子。モーテルに誘い共に一夜を過ごしても手を出してこない。実は彼がゲイだということが分かった辺りから映画の迫力がグンと上がる。
ドライブインに立ち寄るとそこにいた男たちが襲いかかるのだが、その道具はなんとブルドーザー。ゲラゲラ笑いながら女を追い回すシーンはエロスよりも狂気が勝る。この映画、登場人物の全てがヤバいのだが、異常な事件に巻き込まれても日常に帰ろうとする妻が最も強烈だ。映画の始まりでは子どもを作りたいと望む夫に対し「妊娠すると体の線が崩れるから」と拒否をしていたが、散々な体験をした挙げ句、夫に電話で連絡をして自宅に戻ることを決意する。
とはいえ彼は若い愛人と共にいるので、その後、修羅場になるのは間違いないだろう。そんな余韻を残して終わるのがなんともかっこいい。ロマンポルノというジャンルでなければ生まれない異形のロードムービーには、唯一無二の力がある。
『セックス・ライダー 濡れたハイウェイ』も女が事故に遭遇することから日常からの逸脱が始まる。結婚を控えた田中真理はかつての恋人とドライブ中に吉沢健(最近は『龍三と七人の子分たち』でカミソリを片手に好演)をはね飛ばし、なぜか湖に連れて行く。ボートで全裸になり「男は生きているのでは」とまさぐるが反応がないことが分かると水中に落としてしまう。
それから散弾銃を持ったハンターに狙われるが、死んだはずの男に助けられ、彼との逃避行が始まるというストーリーは、こうやって要約してもさっぱり分からない。だが、ロマンポルノの初期作であるが故に、ポルノとしてのルールを模索しているのが伝わってくるのだ。物語だけではない何かを作り手たちは探していたのだろう。
しかし、半裸でゴーゴーダンスを踊るシーンに幼女がいるのには驚いた。全身ボカシで隠されているのは当時でも完全にアウトだったのだろう。そして、映画は田中と吉沢がカーセックスをしながら事故死することで唐突に終わる。ニューシネマ的なやけっぱちなクライマックスに時代を感じずにいられない。この頃の映画は『俺たちに明日はない』や『イージーライダー』のように主人公がやりたい放題やって唐突に死ぬ、というのが流行だった。
ロマンポルノの扉を開いた石井隆と相米慎二
ブルドーザーでゲラゲラ女を追い回す
ニューシネマ的な結末!『セックス・ライダー』
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