更新日:2022年11月25日 23:30
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映画監督・松江哲明が教える今こそ見たい名作「ロマンポルノ」5選

赤塚不二夫が喜々とセックスシーンを演じる迷作?

 やけっぱちと言えば『赤塚不二夫のギャグ・ポルノ 気分を出してもう一度』。「カントク」でお馴染みの山本晋也監督の作品を観ると「映画ってカメラの前で動く遊びのようなもの」と思わされる。山本監督の演出はいかに役者が楽しんでいるかを撮るか、だ。そしてカメラを使った実験。上手くいくか失敗するかなんてやってみなければ分からない。しかも「ポルノなんだから、遊びでいいじゃないか」と言わんばかりの。  だから本作で輝くのは喜々とセックスシーンを演じる赤塚不二夫であり、得意の芸でシーンを独占してしまう由利徹であり、シュールな世界の中で常識人であろうとする柄本明である。そんな世界に対しては観る側も余裕を持ったなければいけない。エンドロールは「柄本明くん」「小川亜佐美さん」「たこ八郎なのだ」「由利徹先輩」と、キャストとの関係性をそのまま紹介。本作は映画を使った祭り以外、なにものでもない。だからこそ貴重なのだ。

岸田森の熱演が光る『黒薔薇昇天』

 対してポルノであってもゲージュツであろうとするのは『黒薔薇昇天』の岸田森。今村昌平、大島渚のような映画を作るんだと谷ナオミを口説くブルーフィルムの監督を関西弁を駆使して演じている。岸田は金のためなら芹明香演じる妊婦を出演させるような酷い人間だが、彼の説くポルノ論は不思議と説得力がある。彼はモノ作りを心底楽しんでいるからだ。猫がミルクを舐める音や犬の鳴き声、歯の治療中の声でセックステープを作るなんて当時でもギャグだろうが、現在のエロサイトのサクラと大差ないような気もする。  そんなものに引っかかるのは今も昔も変わらないし、性で金儲けをする人間はその辺の心理をよく知ってるのだ。それを悲劇としてではなくユーモアとして描くところに作り手の愛情がある。神代辰巳監督の描く登場人物は皆、たくましい。転んでもただでは起きない彼らと同様、作品自体にも躍動感がある。  手持ちカメラが役者を追いかけ回すと、時にはピントや構図も崩れるが、そんなことは知ったこっちゃない。延々とフィルムは回り続ける。フレームから外れたとしても役者は芝居をやめない。この、しつこい視線が監督のねちっこい演出と合致していて、「ちゃんと」していないからこそ魅力的に映るのだ。これがゲリラ撮影ならではの面白さだ。神代辰監督の持つ、どんな場所も「映画」に変えてしまう秘密を知りたくて、僕は何度も作品を見返すが、まだ見つけられない。
映画監督・松江哲明

映画監督・松江哲明

 僕は『黒薔薇昇天』を観ながら「こんな乱暴で迫力のある映画は今、作れないだろうな」と思った。そして、だからこそ新しい年の始まりにロマンポルノが観たかったのか、と気づかされた。ここには善悪が明確なヒーローや悪役はいないが、魅力的な人間たちがいる。「いい加減でだらしなくて何が悪い」。1時間ちょっとの上映時間の間くらいは、そう悪ぶったっていいじゃないか。ロマンポルノを観るということは、絶対の正義からの逃げ場でもあるのだ。<文/松江哲明>
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