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セクハラだと放送中止にされたX’mas定番曲、“問題の歌詞”とバカらしい批判

男尊女卑と批判される曲、女性作者の考えは

 このように、創作物を政治的な正しさに引き寄せて解釈する動きが当たり前になった場合、これからは放送禁止だらけになってしまわないだろうかと心配になる。  たとえば、ウーマンリブ運動当時から“反フェミニズム”だと攻撃にさらされてきた「Stand By Your Man」(タミー・ウィネット 1942-1998)も、再び注目を集めそうだ。  <時に受け入れがたいことが起きたとしても、彼を愛する限り、許してあげなさい>とのフレーズが、男尊女卑的だと激しい批判を受け続けてきたのである。もちろん、文字を額面通りに受け取り、平等の定義を極限まで単純化すれば、理解できないこともないだろう。
 これに対して、生前ウィネットはこう語ったそうだ。 「女性でもできることに関しては、男女平等であるべきだと思う。けど、体力的に女性にはどうしようもないこともたくさんあるわよね。(中略)だから、タバコに火をつけてもらったり、ドアを開けてもらったり、椅子を引いてもらったりするような、女性ならではのささやかな特権は失いたくないの。きっと私は女性であることを楽しんでいるのね」 (Smooth Radio より 筆者訳)  つまり、「女性であることを楽しむ」ことの影の表現だと理解しなければ、「Stand By Your Man」の<許す>の意味を掴み損ねてしまうのだ。ウィネットの考えが時代遅れだという指摘はもっともだ。だが、「Stand By Your Man」が、時代を超えて愛されている事実も軽視すべきではない。

言葉を額面どおりにしか受け取らない危うさ

 繰り返しになるが、政治的、道徳的な潔癖さは、語句の持つ重層的な表現にフタをしてしまいかねない。その風潮こそが危ういのだ。  さて、幸か不幸か、今のところMe Too運動が盛り上がらない日本だが、これからも名曲がくだらない批判の対象にならないことを祈るばかりだ。念のため、80年代中期にテレサ・テンが歌った5つの大名曲「つぐない」「愛人」「時の流れに身をまかせ」「スキャンダル」「別れの予感」なんかは、今から保護を準備しておくべきなのかもしれない。 <文/音楽批評・石黒隆之>
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
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