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便利でお得なフェ●チオカードはいかがですか? 今ならTポイントが貯まります――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第35話>

この手のポイントカードなど、やはり必要ないのだ

それからしばらくして、K君の家でお酒を飲もうということになった。二人でコンビニに寄り、ガコガコとカゴにストロングゼロなどの硬派な酒を放り込んでいく。けっこう買い込んでしまい、こりゃなかなかTポイントが貯まるかもしれない、と考えているとK君が財布を投げて寄越した。 「トイレ行ってくるから払っといて。今日は俺の奢りって約束だったし」 なかなか男気を見せるじゃないか、そう思いつつレジへと行く。金額は4000円くらいだった。まあまあTポイント貯まりそうだ。 K君の財布から4000円を出す。そこであのセリフを言われた。 「Tポイントカードをお持ちですか?」 「あ、はい、あります」 僕の財布から僕のTポイントカードを出そうとした時、天からの声みたいなものが聞こえた。 「セコすぎない?」 K君の財布から金を出したのにポイントは自分の懐か、神みたいな存在にそう嘲笑われているような気がした。 「ちょっと待ってください」 3円、4円を拾っていきプレステを買おうと目論んでいる僕でもさすがにそこまでセコくはない。ここはバシッとK君のカードにポイントを貯めてやろう、そう思った。 K君の財布を漁るが、人の財布ってやつはとことん勝手が分からない。カードポケットにはもんまりとカードが入っていて、どれがどれやら分からない。風俗店の会員カードとかミカン出勤日水曜土曜とか蛍光ピンクで書かれた名刺がボロボロ出てきて、どれがTポイントカードなのかさっぱり分からない。 焦る。 店員の女の子も「早く出せよ」みたいな苛立ちを見せ始めた。後ろにも客が並び始めた。やばい、どこだ、Tポイントカードどこだ。これか! それと思わしきカードをレジに叩きつけた。バシン! オラァ! 「フェラチオカード」 時が止まった。9万円の超高級カードがおでましだ。 いくら1年間、フェラチオのオプション付け放題のカードといえどもさすがにコンビニではつけてくれないと思う。 そう、時が止まったのだ。警察とか呼ばれなくて本当に良かった。 この事件以来、レジでTポイントカードを出そうとすると、あの相撲取りみたいなフォントで書かれたフェラチオカードや、女性店員さんのひきつった表情がフラッシュバックのように思い出されるのだ。それらのトラウマを乗り越えて3円、4円を拾う勇気は僕にはない。 だから僕はTポイントカードを出せないのだ。 結局、嘘をつくのが心苦しいのだろうからとTポイントカードを捨てることにした。これで本当に持っていないのだから、嘘をつくわけではない。思い切って捨てた。 ずいぶんと心が楽になった。やはりカードなど持つものではないのだ。この手のポイントカードなど、必要ないのだ。パンパンに膨らんだ財布も、本当に選別したら半分以下になるのかもしれない。 そう、カードなんか持つべきではないのだ。 ちなみに甲斐君が買ったフェラチオカードだが、買った3か月後に店が潰れたらしい。それでも彼は捨てられず、大切にフェラチオカードを持っている。 「フェラチオカードお持ちですか?」 彼に会うたびに揶揄するようにそう尋ねている。 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri) ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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