更新日:2020年09月10日 15:52
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個室ビデオ鑑賞店の戦いで、おっさんに完膚なきまでに叩きのめされた僕はーーpatoの「おっさんは二度死ぬ」<第33話>

 昭和は過ぎ、平成も終わりゆくこの頃。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか――伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート! patoの「おっさんは二度死ぬ」【第33話】「個室ビデオの鉄の掟」  終電後の繁華街は戦争だ。  大都市の場合はそうでもないが、やや微妙な規模の地方都市だったりする場合、終電後の世界は激しい戦争となる。宿泊場所の争奪戦がはじまるのだ。  その都市に突如泊まることになった場合、または酒場でエロい女に逆ナンされてラブホテルにしけこむことが想定される場合、ビジネスホテルの予約をしないことがある。前者は突然の予約はたいていホテル代が跳ね上がって不経済になりがちだし、後者はホテル代とラブホテル代の二重払いになりこちらも不経済だからだ。  もちろん、どんな酒場に行こうともそういった色っぽい展開になるはずもなく、夜の繁華街、宿泊場所を求めて彷徨うことになるのだが、そんな状況において大きな力を発揮するのが「個室ビデオ」という存在だ。  これはまあ、いわゆるエロいビデオを個室で見るという、完全に「オナニーしなさいっ!」という天啓を授かる場所だが、じつはこれ、宿泊場所としての側面も持っている。  週末の繁華街は、ホテル以外の宿泊場所に焦点を当てると、まずサウナだとかカプセルホテルみたいなホテルよりやや手軽な宿泊施設場所が最初に満員になる。みんな最低限しっかりと寝たいと考えるからだ。  そして、そこに入れなかった人が流れる先がネットカフェである。これはまあ、あまりしっかりとは眠れないが、それをカバーして有り余る手軽さがあるからだ。値段も安い。  都市の規模に対して、そういった店舗が極端に少ない地域では、これら二つの宿泊場所すらも週末ともなると簡単に満員になってしまう。カプセルホテルダメ、サウナダメ、ネカフェもダメ、そういった状況でおっさんの強い味方になってくれるのが、冒頭でも述べた「個室ビデオ」という存在だ。(法的には宿泊施設という分類ではないが、そのように使われている実態がある)  ちょっとした都市の繁華街なら、ケバケバしい看板と共に大々的に「個室ビデオ」「DVD試写」などとけっこうな怪しさの看板があるのでご存知の方も多いかもしれない。これらは、まあ、読んで字のごとくビデオやDVDを見る場所なのだが、近年になって「ライバルはホテル」などと銘打ちだして、DVD鑑賞を行う個室を宿泊施設としてアピールしだしたのだ。  よくよく考えると、けっこうしっかりした個室だ。ドアもついているし鍵だってかかる。エロいビデオを見る個室なので防音もしっかりしている所が多い。ビジネスホテルまではいかないかもしれないが、ネットカフェでイビキの大合唱に震えながら眠るよりは深い眠りが約束されている場所なのだ。おまけにナイトパックみたいな料金設定まである。  さて、この個室ビデオ、全く利用したことない人、または女性にはほとんど謎な存在だと思う。簡単に説明すると、レンタルビデオ屋を想像してもらえると分かりやすい。入店するとあれと同じ設備が目の前に現れてくる。  「いらっしゃいませ!」  威勢の良い声が響く。個室ビデオの店員のおっさんは、絶対にハキハキしたおっさんだ。めちゃくちゃ元気がいい。めちゃくちゃ愛想がいい。そしておっさんだ。僕は個室ビデオでハキハキしていないおっさんを見たことがない。たぶん、かなり厳しいレベルでそういった店員教育が行き届いているのだろう。  目の前にはレンタルビデオ屋と全く同じ光景が広がっている。棚がたくさんあって、山ほどのDVDが並んでいる。ただし、そのラインナップはレンタルビデオ店と大きく異なり、95%くらいエロビデオだ。申し訳程度に一般映画の棚があって、そこにアルマゲドンとかダウンタウンのやつとかあるが、それ以外は全部エロいやつだ。  おまけに、エロビデオの分類がものすごい。メーカーごとに棚分けされているとか女優ごとに分けられているとか当たり前で、企画物だったりすると、かなり細かい分類で分けられている。  今まで見てきた中で一番圧巻だった分類が、「素人参加複数もの、肌が小麦色で高いヒールをはいた女たち」という分類だ。細かすぎてもうわけわからない。そんな分類に当てはまる作品あんのかよと思ったら、そこに3本並んでいたりするのだから恐ろしい。プロが選ぶことを想定してプロが分類している、そう思った。  そんなエロビデオの森で決められた本数のエロDVDをかごに入れる。店によって異なるが、だいたい5本くらい選べるようになっている。そのまま妙に元気のいいおっさん店員のところまでもっていく。  ここからが普通のレンタルショップと異なるが、借りるDVDが決まると、今度は個室を選ぶことになる。リクライニングソファーの個室や、フラットシートなど、多種多様な個室がある。しかも、共同シャワーに入るかどうかまで選べることがほとんどだ。  個室が決まると、絶対に元気のいいおっさん店員が「ご一緒にアダルトグッズはいかがですか」とレジ横に置かれたTENGAだとかのオナホールを進めてくる。オナホールという、やや人目をはばかって使用するアダルトグッズをめちゃくちゃ元気に、ご一緒にポテトでもいかがですか、みたいなトーンで勧めてくるので脳がパニックを起こす。  経験上、そういった人を見たことがないが、ここでオナホールを買えるやつはかなりの強キャラだと思う。  あとは借りたDVDをもって個室へ。鑑賞となる。  繰り返しになるが、個室の防音がしっかりしているところが多いので、ヘッドフォンをせず、大音量の迫力でエロビデオを鑑賞することが可能となる。  地域によって値段は異なるが、だいたいナイトパックみたいなものがあって、一晩滞在して2000円とか3000円だ。十分にネットカフェと対抗できるし、エロビデオだって見放題と考えるとなかなかリーズナブルだ。  ということで、宿泊場所がないときの大きな味方となる個室ビデオだが、そんな救世主的な存在の店舗に一つの鉄の掟が存在する。妥協を許さないプロのおっさんがエロDVDをみてやろうと百鬼夜行のように集うが、時にその鉄の掟に苦しめられることがあるのだ。
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とにかく早く寝たい。が、DVDはテキトーに選べないというジレンマ
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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