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ピエール瀧逮捕から考える、不祥事による過去作品の封印は誰のためか/鴻上尚史

機械的封印は思考停止

 360万人が見て、そのうちの0.5%は1万8千人。けれど、どう見てもそんなに多くのツイートはありませんでした。恒常的に粘着している人の数は、さらに減り、0.00X%だと書かれています。  360万人が見て200人が怒り、それを(多く見積もって)計1万人がリツイートしたら、割合は、0.3%です。つまり、マスコミは、99.7%の意見と0.3%の意見を、両論表記して、平等に紹介したわけです。  これもまた、僕は「思考停止」だと思います。「一方の意見だけを紹介したら、後から何を言われるか分からないない。両方、同じように並べよう」という機械的な判断です。  この割合は無視していいとか、紹介の仕方に割合を対応させよう、なんて柔軟な思考はありません。  もちろん、CMが中止になるのは、当たり前でしょう。CMは企業が選ぶものです。これから放送されるテレビ番組の出演場面が削られるのは、(ドラマ創作者としては非常な苦痛ですが)しかたないかもしれません。  けれど、過去作品は誰にとって役に立つ封印なのかと思います。

 東日本大震災以降、不通だった「三陸鉄道リアス線」が、3月23日にようやく開通する記念として、再放送が予定されていた『あまちゃん』の総集編後半が、ピエール瀧容疑者が「東京編」に出演していたので、放送中止になりました。  この鉄道は、番組では「北三陸鉄道リアス線」の名で何度も登場し、北三陸と東京をつなぐ重要な役割を果たしました。意味のある再放送になるはずでした。NHKは、DVDの販売についてもどうするか「関係者と協議中」と答えています。  ピエール瀧容疑者は、現在、社会的制裁を受けています。有罪判決が確定すればさらに受けるでしょう。  が、それと、過去作品が封印されていくことがイコールになるというのは、まるで、子供が犯罪を犯したら親までも罰せられるような大昔の連座制そのものだと思うのです。  NHKも民放テレビ局も、そして大手の映画会社も、100万人が問題にしなくても、10人が抗議したら、機械的に封印するでしょう。それは、文化にとってとても悲しいことだと思うのです。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

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本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻。鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録

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