更新日:2023年04月13日 01:30
エンタメ

出会い系の女に会うため、暴風雨をかき分けた男の矜持――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第53話>

おっさんどもは毎度、サクラの手口にまんまとハマるのだった

「昨日も会えなかったわけよ」 遠矢さんはそう言って憤る。 そんなもの会えるはずもなく、それサクラですよ、と僕も西川君も薄々気が付いていたが、家一軒買えるくらいつぎ込んだスピードスターにそんなこと言えやしなかった。 例えば、出会い系サイトでは女性にメールを送るのに男側は50円分のポイントが必要なわけだ。そのうちのいくらがサクラの報酬になるか分からないが、完全に歩合制になっていると予想できる。  半分は入ると仮定すると、1通送らせれば25円、10通で250円、100通で2500円が入るわけだ。 なるべく会話を引き延ばして沢山のメールを送らせたい。それがサクラの心情だ。 ただ、おっさんどもは「会う」ことのみに特化した特殊兵器みたいになっているので、なかなか会話を引き延ばそうとしても引き延ばせない。二言目には「いつ会う?」「今日行ける?」なのだ。下手したら開幕からそれの場合もある。 そこで、最も効率よく会話を引き延ばす手段として、「会う約束をしてすっぽかす」という手法が多用されるようになる。 「いま、フタバ図書周辺でやることもなくウロウロしています。なんだか誰かに会いたい気分、エッチな気分かも」 サクラはこういった話が早い系の書き込みをしてくる。フタバ図書とは町の中心付近にあった本屋なのだけど、そこでウロウロしてるというのだ。ほのかにエロすらも匂わせてくる。イージーに行けそうな雰囲気がムンムンしてくる。 ただ、会う気のないサクラなので、実際にはフタバ図書の周辺にはいない。それどころか、地図をみて中心地的な地点を言っているだけで、そもそも近所でもなかったり、他県だったり、下手したら一度も来たことのない知らない土地、というパターンがほとんどだ。 冷静に見るとサクラ丸出しの書き込みだが、遠矢さんはすぐに食いつく。すぐ会える? 今すぐいけるよ? 話題のラブホテル行ってみない? みたいな感じだ。猫まっしぐらならぬ遠矢まっしぐらだ。 「じゃあ、会いましょう、具体的にどこで待ち合わせます?」 「何時にしますか?」 「ドキドキするので声かけてくださいね」 「私の服装は赤のコートに、黒っぽいバッグです」 「やっぱりドキドキするので私から話しかけます。スピードスターTOYAさんの服装教えてください」 「到着したらメッセージくださいね」 こんなメールがガンガンくる。無視するわけにはいかないのでこれらにいちいち返信する。このやり取りで8通くらいメールを送らせることが可能だ。 さらに、これだけで終わりと思いきや、待ち合わせ時間が近くなってくるとさらに攻勢が始まる。 「ごめんなさい、バスが遅れてるみたい、5分くらい遅れます」 「もうついてます?」 「すいません、もうちょっと遅れるみたいです」 「ごめんなさい、もう待ってないですよね?」 「近くまで行きましたが、勇気が出なくて」 「決めた。いまから行きます。エッチな服着てきたから笑わないでくださいね」 実際には来てすらいないくせに、ケツの毛まで毟り取ってやろうとさらにメールを送らせようとしてくる。これにいちいち返信しないといけないから大変だ。  結果、この待ち合わせのゴタゴタだけで30通くらいメールを送る羽目になるのだ。ざっと1500円くらいかかる計算だ。
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吹き荒れる暴風雨の中で現れた書き込み
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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