更新日:2023年04月13日 01:30
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出会い系の女に会うため、暴風雨をかき分けた男の矜持――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第53話>

遠矢さんは新たに●もつぎ込んだのだった

 結局、命からがらフタバ図書に到着すると、思ったほど冠水はしていなかったが、フタバ図書は早々に店じまいしており、人っ子一人いなかったそうだ。  「あれー、ここどこだろう? わかんなくなっちゃった」  「ちょっと待ってね、必ずそこに行くから」  といつもの調子で搾り取るためのメッセージが来たけど、遠矢さんは彼女が濁流に流されたとしか思えず、必死で探したそうだ。それっきり、彼女からメッセージは来なかった。ほんと、サクラってひどいことするな。  遠矢さんの不幸は続いた。  諦めて帰ろうとし、冠水した道路を無理やり通ろうとして車を潰してしまったそうだ。  「俺は台風のように怒ってるわけだよ」  停電した店内で、溶けるくらいならとアイスを食っていた僕と西川君のもとに濡れネズミみたいになって遠矢さんが帰ってきた。  それまではよく分からない比喩だったが、今ならわかる。この打ち付ける台風のように遠矢さんは怒っているのだ。  「俺は家一軒分と車一台分を出会い系サイトにつぎ込んだ」  そう言って憤りながらむしゃむしゃと溶けかけのアイスを貪る遠矢さん。僕と西川君は「あ、車一台分増えてる。潰したんだ」と思うことしかできなかった。つくづく出会い系サイトのサクラは罪な存在なのだ。  荒れ狂う台風がすこしだけ勢いを弱めたような気がした。 ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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