更新日:2023年04月13日 01:30
エンタメ

出会い系の女に会うため、暴風雨をかき分けた男の矜持――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第53話>

吹き荒れる暴風雨の中で現れた書き込み

それでエロい娘もなにも来ず、ただフタバ図書があるだけなので、完全に踏んだり蹴ったりの状態に陥る。そのうち相手は音信不通になる。そこでも「おーい」などと送るのでいくらか消費させられる。 「俺は怒っているよ。台風のように怒ってるわけだよ」 それが遠矢さんの口癖だった。ちょっと「台風のように」という比喩は分かるようでよく分からない。 ただ、毎度のことながら待ち合わせ場所(同じサクラが名前を変えて跋扈しているらしく毎回フタバ図書)で待ちぼうけをくらい、怒りのアフガンと化していることだけはわかった。 「台風のように怒っているわけだよ」 そんなある日、遠矢さんのその言葉が現実のものとなった。 我々の住む街を大型の台風が本当に襲ったのだ。いつもはなんだかんだいって逸れていくが、その台風は直撃だった。遠矢さんの怒りが呼び寄せたかと思うほどに直撃だった。 空は荒れ狂い、激しい雨がタップダンスのようにアスファルトを打ち付けた。木々は揺れ、木の葉が折り重なって宙に舞っていた。多くの店が襲来に備えて早じまいする中、僕も食料を調達せねばならないと件のコンビニへと向かった。 台風本体はまだ遠くにいるところだったが、すでに風雨は激しく、原付バイクで空が飛べるような感じになりながら到着した。 すると、遠矢さんは携帯電話と睨めっこをしていた。 西川君は台風の襲来に備えて看板をしまったりシャッターを下ろしたりしていたが、遠矢さんはレジで仏頂面、念力で動かそうとしてるのかという感じで携帯電話を睨みつけていた。 「どうしたんですか?」 僕が話しかけると、遠矢さんは「よくぞ聞いてくれた」みたいな顔をして携帯電話をこちらに差し出した。 「暇だなあ。いまフタバ図書の前でベンチに座ってボーっとしています。どなたか温め合いませんか? 暇すぎてエッチな妄想しちゃうよー」 そんな書き込みだったと思う。別に取り立てて特徴があるわけではない、完全なるサクラの書き込みだ。 「これどう思う?」 そう聞かれたが、サクラ丸出しですねと言うわけにもいかず、無難に答えておいた。 「どうでしょう。なんか怪しいですよ。またすっぽかされるかも」 これが僕の精一杯だ。その言葉に遠矢さんが珍しく声を荒げた。 「バカヤロウ! そういうこといってんじゃねえ! 外を見ろ!」 そう、そこまで言われて気が付いた。外はもう暴風雨だ。台風の接近に備えて空は激しく荒ぶり、川はメロスの叫びをせせら笑った時のように濁流となって踊り狂っている。 「そういえば、フタバ図書の前を通ってきましたけど、ちょっと冠水してました」 「だろ?」 遠矢さんはさらに険しい顔になった。
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吹き荒れる暴風雨の中で待っている女とは
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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