どうしてこういうことが起こったのか。 前述したようにサクラは様々な土地で、それっぽい書き込みをして男を釣っている。全く縁もゆかりもない場所に書き込みを投下し、男を釣っているわけだ。 つまり、この町が暴風雨の真っただ中であると知らず、いつもの調子で書き込みをしてしまった可能性が高いのだ。 「こんな暴風雨の中でボーっとしてるわけないですよね。避難しなきゃいけないレベルですよ。エッチな妄想している場合じゃないですよ」 作業を終えた西川君が話に加わった。僕と西川君の目的は同じだ。このサクラの致命的なミスに付け込んで、遠矢さんの目を覚まさせるのだ。 あなたが家一軒分くらいつぎ込んだ出会い系サイトは全部サクラですよ。サクラだからこんなベチベチと雨が打ち付ける台風の中でボーっとエッチな妄想している変な女みたいなことになるんです。 「お、メッセージが来た」 遠矢さんが口を開いた。 どうやら暴風の中でエッチな妄想をしている女からメッセージが着弾してきたようだ。どうやら、こちらが彼女の書き込みにアクセスしたという足跡が向こうには筒抜けらしく、メールを送らないでいると煽りのメッセージが着弾することがあるようだ。 　「フタバ図書の前で待ってるよ。待ちすぎて疲れちゃった。このまま寝ちゃうかも。ふにゃふにゃ」 　誘い文句としては超一級だ。サクラだと知っている僕でもフタバ図書に駆けつけてしまいそうだ。ただ、今が暴風雨で、フタバ図書周辺で冠水が始まっていることを考えると、途端におかしいメッセージになってしまう。あんな冠水の中で寝てるのか。どんな女だ。 　さらに追い打ちのように煽りメッセージが着弾してくる。 　「今日の服装はキャミソールだよ。ちょっと露出が多くて恥ずかしい」 　女は、とても暴風に備えているとは思えない軽装だ。防御力なさすぎる。完全におかしい。絶対におかしい。 　「こういうことですよ、遠矢さん」 　「そうです。こういうことです。そろそろ気づいて……」 　なるべく遠回しにサクラであること、あなたが家一軒分をつぎこんだものはサクラであることを告げようとした。その瞬間だった。 　「寝ちゃいかん！　死んでしまう！　うおおおおおお、今行くぞ！　あとの店じまいは頼んだ！」 　と僕らが止める前に物凄い速さでフタバ図書へと向かってしまった。 　「なんで信じられるんだ」 　「おかしいと思わないのか」 　「すごい速さでいったな。さすがスピードスター」 　激しい雨が窓を打ち付ける音だけが店内に響いていた。