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出会い系の女に会うため、暴風雨をかき分けた男の矜持――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第53話>

 昭和は過ぎ、平成も終わり、時代はもう令和。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか——伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート! patoの「おっさんは二度死ぬ」【第53話】台風は罪なヤツ 「俺は台風のように怒ってるわけだよ」 その言葉の内容とは裏腹に、遠矢さんは極めて冷静な口調で言い放った。 遠矢さんは全国チェーンではない地元密着型コンビニの経営者だった。同じ大学の友人である西川君がそこでバイトしており、冷やかしに行くうちにちょっと込み入った話などをするようになった。 遠矢さんの経営するローカルコンビニは時代の最先端を行っており、昨今のコンビニ業界では、24時間営業の困難さ、人手不足、オーナーの苦労などがたびたび話題になるが、当時の遠矢さんのコンビニはそんな話とは無縁だった。なにせコンビニなのに9時に閉店する豪傑っぷりだったのだ。 そんな、果たして「コンビニエンス」と言い切ってしまって良いのか疑問になる店舗だが、経営する遠矢さんは経営者としての顔とは別に裏の顔を持っていた。それが「出会い系サイトマスター」としての顔だ。 本人曰く、自分は出会い系サイトの常連であり、「スピードスター」の異名を持っているとのことだった。スピードスターの意味はよく分からないけれども、なんとなく凄みみたいなものを感じる。 これまでに出会い系サイトに家一軒を買えるぐらいの金を使ったと豪語する彼の姿は、誇らしくもあり、情けなくもあった。人間こうあるべきと思ったし、人間こうなったらおしまいと感じる何かがそこにあった。様々な矛盾を抱えた存在、それが遠矢さんだった。 スピードスターは、いつも怒っていた。 貧乏な大学生だった僕は、そのコンビニに西川君を訪ねていくのだけど、行くのはいつも閉店間際だった。そうするとスピードスターが残り物の総菜とかくれるのだ。そこで軽く会話をするのだけど、スピードスターはたいてい憤慨していた。 「昨日もすっぽかされたよ」 出会い系サイトとは、言うまでもなく出会うためのサイトだ。そこに大金を投じる男性の多くは、最終的には女性に出会うことを目的としている。けれども、当時の出会い系サイトは完全に出会えないサイトでもあった。 こう言ってしまってはなんだが、おっさんが若い娘やエロい娘と出会いたいと思う反面、若い娘やエロい娘はおっさんと出会いたいとは思っていない。 つまり、普通に出会い系サイトを運営したところで、男女が活発にやり取りする健全な出会い系サイトなど実現せず、ただただおっさんどもが魑魅魍魎のごとく蠢くだけのサイトが出来上がってしまうのだ。 そこで多くの出会い系サイトが「サクラ」というシステムを導入していた。これが、出会う気のないアルバイトみたいな連中を大量にサイトに投入し、出会いとエロに飢えた女を演じさせるわけだ。 そしてエロい話などを交わして男側にポイントだけを消費させるという、悪質極まりないものだった。
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おっさんどもは毎度、サクラの手口にまんまとハマるのだった
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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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