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覚せい剤を使った自慰行為にハマッてしまった中年男性の末路<薬物裁判556日傍聴記>

覚せい剤で自慰行為

 今度は検察官による被告人質問に耳を傾けてみましょう。

イラスト/西舘亜矢子

検察官「覚せい剤をどういうふうに使っていたかは、捜査段階で話しました?」 被告人「はい。話しました」 検察官「話したくなかったら話さないでいいですけど、どういう時に使っていたんですか?」 被告人「先ほどもお話しましたように、覚せい剤を水で溶かしたものを、陰部、陰茎部分に塗りまして、それで自慰行為を行っていました」 検察官「自慰行為のほかに、どういうふうに使っていたか、差し支えなければ……?」 被告人「はい。自慰行為の他には使うことはございませんでした」 検察官「警察には、もっと他の時に使うと話ししていませんでしたか?」 被告人「いえ。室外では一切使ったことはございません」 検察官「性行為?」 被告人「あっ、それは最初知人の方との時に、そういった場面がございまして。性行為の時ではその方と以外は使っておりませんし、その方とも途中で連絡を絶ちましたので」 検察官「覚せい剤が法律に反することは常識として知っていましたか?」 被告人「はい」 「差し支えなければ」という前置きの割に、一言「性行為?」とは随分突っ込んだ質問に思えます。被告の心情を考えれば、あまり答えたくない類の質問ではないかと想像されますが、聞く必要があったのでしょうか。当然これは避妊具を使わず行為に及んでいたことを意味しています。注射器でも炙りでもなく、粘膜による覚せい剤摂取。様々な使用法があるものですが、判決は初犯による使用者の量刑相場通り。すなわち以下です。 裁判官「ここに記載する覚せい剤取締法違反、大麻取締法違反の事件について判決を言渡します。主文。被告人を懲役1年6ヶ月に処する。この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。懲役1年6ヶ月とありますが、執行猶予つきの判決ということになりますので、直ちに刑務所に行くことはないということになります。 ただし、この執行猶予期間中に再び罪を犯し刑に処せられることがあれば、この執行猶予の言渡しは取り消されます。その場合には今回言渡しがあった懲役1年6ヶ月については実際に服役してもらうことになりますし、新たに犯した罪の刑についても合わせて受けることなりますので、そのようなことがないように十分注意して生活をしてください。 次は刑務所だということを思っていてください。この判決に不服がある場合には控訴の申し立てをすることができます。その場合は明日から14日以内に、その旨を書いた東京高等裁判所宛に控訴申立書をこの裁判所に提出してください。以上で判決の言い渡しを終わりにします」    ***  本法廷の被告はいわゆる“シャブセックス”による末路と言っていいだろう。「女がシャブセックスを覚えたら、オーガズムとの相乗効果で絶対にやめられない」と、かつて取材で聞いたことがある。今回の被告は男性同士で使用していたのだが、“シャブセックス”の快感の度合いに性差はあるのだろうか。どうあれ検察官の質問を読む限り、罪を犯してしまった人間にセンシティブな配慮は不要ということらしい。 <取材・文/斉藤総一 構成/山田文大 イラスト/西舘亜矢子>
自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す
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※斉藤さんのnoteでは裁判傍聴記の全文を公開中。 https://note.mu/so1saito/n/n173d8a3bd207
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