――これまでGHさんは、どんな漫画を読んできたんですか。 GH：劇画から少女漫画まで何でも読みますが、特にヤンキー漫画が大好きで、なかでも、髙橋ツトム先生の『爆音列島（※2）』と南勝久先生の『ナニワトモアレ（※3）』はリアルだと思います。 磯部：前に仕事で「ヤンキー漫画と音楽」みたいなテーマを頼まれたことがあって、いろいろ調べたんだけど、ヒップホップが出てくる作品はほとんどなかった。そんな中でSITE(GHの別名義)が評価しているのは中尊寺ゆつこの『ワイルドQ』におけるラップの取り上げ方だよね。 GH：俺が一番好きなヒップホップ漫画でマスターピースですね。当時は“日本語ラップ”がブームだったので少しタイミングは悪かったけど、アメリカかぶれした主人公が最高だった。 磯部：あの時代の日本人がラップをやる意味はどこにあるのか、みたいなテーマを中尊寺ゆつこなりに模索する作品だった。クラブカルチャーを取り上げた漫画では、岡崎京子の『東京ガールズブラボー（※4）』と並ぶ重要作。 GH：岡崎京子先生の影響は今回、特に大きくて、「少年イン・ザ・フッド」の冒頭で『リバーズ・エッジ』にオマージュを捧げていたり、このあと出てくるヒロインの名前も『東京ガールズブラボー』からとってます。 ――今回の作品では、映画『ボーイズ’ン・ザ・フッド』のオマージュととれるシーンもあります。モデルとなる街はあるんですか。 GH：はい。神奈川県にある「いちょう団地」という居住者の2割くらいが外国人の巨大な団地がモデルです。ぼくの生まれは東京の渋谷区ですが、父方の親戚が皆ブラジルに住んでたり、仲間にも日系ペルー人の友達が大勢いるので、移民は身近な存在ですね。「少年イン・ザ・フッド」でも“団地”と“移民”が大きなテーマになる予定ですが、それは磯部君の書いた『ルポ川崎』と通じるところも大きい。『ルポ川崎』にはBAD HOP（※5）をはじめ、たくさんの若いラッパーが出てきますが、キラキラな目をした無垢な少年が、ヒップホップを通じてフッド(地元)の夢と現実と対峙して、逞しく成長していく姿を描いていきたい。 【Ghetto Hollywood氏】 ゲットー・ハリウッド　’79年生まれ。’98年からSITE名義でグラフィティライターとしての活動を始める。Ghetto Hollywood名義で、ラッパーの楽曲を中心に多数のMVも手がける。ラップグループSD JUNKSTAにも所属 【磯部涼氏】 いそべ・りょう　’78年生まれ。音楽ライター。主に音楽と社会について執筆。著書に『ルポ 川崎』（サイゾー）、共著に『ラップは何を映しているのか』（毎日新聞出版）など。『文藝』（河出書房新社）で「移民とラップ」を連載中 　＊　＊　＊ ※1……『blast』前身の『FRONT』を受け継いで、’91年に創刊された日本唯一のヒップホップ専門の音楽誌。音楽だけではなく、グラフィティやダンスなどヒップホップカルチャー全般を取扱った。’07年に休刊 ※2……『爆音列島』’02年から’13年にかけて『月刊アフタヌーン』で連載された髙橋ツトムの自伝的コミック。’80年代の東京・品川区を舞台に、中野区から転校してきた主人公タカシが暴走族ZEROS（ゼロス）で成長していく様を、当時の風俗とともにリアルに描き出す ※3……『ナニワトモアレ』『週刊ヤングマガジン』で’00年から連載開始、’07年に始まった第2部から『なにわ友あれ』と改題、’14年まで連載された南勝久のコミック。’90年代前半の大阪と泉州地区を舞台に、“環状族”と呼ばれる大阪環状線を走っていた走り屋たちの青春を、全編、関西弁で綴る ※4……『東京ガールズブラボー』’90年から’92年にかけて女性ファッション誌『CUTiE』で連載された岡崎京子のコミック。’80年代の東京を舞台に音楽、ファッションなど、当時のカルチャーを生き生きと蘇らせる ※5……BAD HOP　神奈川県川崎市を拠点に、双子であるT ‒PablowとYZERRを中心とした8MCによるヒップホップ・クルー。T-PablowとYZERRはそれぞれ「高校生RAP選手権」で優勝して頭角を現し、T-Pablowは『フリースタイルダンジョン』の初代モンスターとして活躍。無料DLのミックステープ、ゲリラ的にCDを無料配布するなど独自のリリース形態で話題を呼ぶ。’17年に初の全国流通盤をリリース、初の全国ツアーで成功を収め一躍全国区となる 取材・文／週刊SPA！編集部　撮影／渡辺秀之 ※週刊SPA！8月6日発売号「ヒップホップの多様性は団地から生まれる」より一部抜粋したものです