エンタメ

「あくまで“かっこよく稼ぐ”」現役ラッパーの経営者としての顔。“二面性”で抱えた葛藤の先に/AK-69インタビュー

 ラッパーとして常にヒップホップシーンの最前線を走り続ける「AK-69」。5度にわたる日本武道館単独ライブの成功、ジャスティン・ビーバーやリアーナといったスーパースターが名を連ねるアメリカの名門レーベル「Def Jam Recordings」に、日本人で初めて契約を交わすなど、その名を轟かせてきた。
武士尋己

ラッパー「AK-69」として活動し、会社を2社経営する武士尋己さん

 AK-69の楽曲は、プロボクサーの井岡一翔をはじめとする格闘家や、多数のプロ野球選手が登場曲で使用したり、横綱・照ノ富士が楽曲を聴いて自身を鼓舞するなど、トップアスリートたちが“勝負曲”として支持。リリック(歌詞)には、AK-69のリアルな生き様や心情が表現されている。
ライブ

ステージ上でパフォーマンスするAK-69(Flying B Entertainment 提供写真)

 たとえば、恥と失敗を恐れない不屈の精神、必死に夢を追いかけ、壁に立ち向かう勇気……。“闘う男の代弁者”とも呼ばれる彼の「成り上がりマインド」が、若者やアスリートはもちろん、経営者やビジネスパーソンまで、幅広い層に大きな影響を与えている。  そんなAK-69は、経営者としての一面も持っている。2004年に設立した株式会社R.P.M.では、自身がプロデュースするアパレルブランド「BAGARCH」を展開。さらに2015年には株式会社Flying B Entertainmentを立ち上げ、アーティストやアスリートのマネジメントやイベントの企画、プロデュースなど、現役のラッパーでありながら経営者としても手腕を振るっているのだ。  “AK-69”こと武士尋己さんに、ビジネスとして見た「ヒップホップ」や、成功し続けるための「秘訣」について話を聞いた。

名古屋にいたからこそ、「チャンスは待っていてもこない」

武士尋己ビジネスは、やるしかなかった」  インタビューの冒頭で、そう切り出す武士さん。意外にも経営者として会社を始めたのは、AK-69の別名義「Kalassy Nikoff(カラシニコフ)」でソロデビューした2004年にまで遡る。“ストリートからの成功者”の意味を込めた、アパレルブランド「BAGARCH」をプロデュースした。
BAGARCH

アパレルブランド「BAGARCH」の商品(Flying B Entertainment 提供写真)

 ラッパー活動と並行し、ファッションビジネスにも挑戦したのは、「東海では、何でも自分たちでやっていくことが当たり前だった」からだと話す。 「名古屋は東京と離れていて“独立国家”みたいなところで、チャンスは待っていてもこないんですよ。東京では、アパレルのプロデュースや広告塔の仕事が舞い込むけど、名古屋ではそんなのありえなかった。なので、東海エリアではアーティストがブランドを持って、自分で飯を食っていくのが当たり前の感覚だったんですよ。海外のノリや東京のシーンを参考に見よう見まねで、それこそ何でもやりました」  テレビの深夜枠を買って番組を作ったり、フリーペーパーを発刊して情報発信したり、ライブの宣伝カーを走らせたり。メジャーシーンの東京に反骨心を抱き、アンダーグラウンドシーンの名古屋を盛り上げるべく、アーティスト活動に注力するとともに、アパレルのビジネスも手がけた。 「アーティスト活動とビジネスを切り離すのではなく、ひとつのセットとして捉えていたので、アパレルを始めるのはごく自然の流れだった。  いざ始めてみると、デザインや機能性にこだわるために生地も一から作り、OEM生産で在庫を揃えていったので、資金も結構かかりました。いきなりハードルの高い事業を始めたこともあり、軌道に乗るまでの最初の頃は大変でしたね。とはいえ、アーティストとして人気が出始めたタイミングでアパレルをスタートさせたので、そこから知名度がどんどん上がって、それに比例するように売れ行きも良くなっていきました」

「さらに自分を追い込み、上を目指したかった」

武士尋己 ただ、あくまで活動の中心は音楽であり、AK-69としての活動に全てを注ぐスタンスを貫いてきた。2007年にはAK-69の名を一躍全国に知らしめた「Ding Ding Dong ~心の鐘~ 」をリリース。ここから、孤高のヒップホップキングとしてのスターダムを駆け上がっていく。2011年には、国内外のトップアーティストがライブを行う名古屋ガイシホールで1万人規模のワンマンライブを成功させ、インディペンデントの“ラッパー”として歴史的快挙を成し遂げた。 「このままあぐらをかくこともできたが、さらに自分を追い込み、上を目指したかった」  そんな思いから、2012年には単身ニューヨークへ武者修行に出かける。  そこでの苦悩や挑戦から生まれた「START IT AGAIN」はスマッシュヒットを記録し、2013年に全国5都市のZeppツアー、2014年には自身初となる日本武道館でのワンマンライブを開催。  時代とともに音楽のトレンドやニーズが変わっていくなか、常に新しいことに挑戦し続けるAK-69の姿勢は、多くの人に勇気と感動を与えてきたわけだ。  そして、2015年にはマネジメント事務所であるFlying B Entertainmentを立ち上げ、翌年にはメジャーデビューシングル「Flying B」をリリースする。
次のページ
“AK-69”と“武士尋己”の二面性が生み出す葛藤
1
2
3
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている

記事一覧へ
おすすめ記事