更新日:2023年04月13日 01:52
スポーツ

「おい上瀧……!」進入違いは自分が納得できる理由探しだ<江戸川乞食のヤラれ日記S>

現在は日本モーターボート選手会の会長・上瀧和則 (日本モーターボート選手会HP挨拶より)

スタート展示から違和感。あの上瀧が「動かない」

 違和感はスタート展示からあった。『おい上瀧! インから競走するんじゃなかったのかっ!?』そんなファンの声がボートピア場内に響き渡る。  つまりはスタート展示の時点で上瀧は動かず、すんなり枠なり2コースに収まる進入。むしろ5枠濱野谷が積極的に動き今垣をどけて4コースに入ってくる123546。ざわつく客、スタート展示が終わると場内には前日の優勝戦出場選手インタビューが再び流れ始める。  もちろんインタビューは上瀧のインから行く、絶対に勝つという前日の言葉が流れている。  そんな上瀧のコメントと、ついさっき目の前に展開された動かない上瀧。  実際のレースでは上瀧はイン強奪からの逃げなのか、それともスロー勢の中では展開待ちになる可能性の高い2コースのままいくのか?  結局その答えがでないまま、本番出走を迎えた。  ガラスに囲まれているはずの実況席のマイクが拾えるくらいに豪快な唐津本場のヤジと声援が場外にも響く。それらの声に送られるようにピットを離れ、作戦待機行動に向かう6艇のボート。  本番は一瞬だけ内側を窺った6枠今村豊以外は誰もコースを取りに行く気配を見せず、注目の上瀧に至ってはホーム水面に先に出たにもかかわらずバックで出遅れた田中信一郎のために内側を開けて待っている始末。おまけにスタート展示で今垣をどかして4コースに入った濱野谷も本番ではすんなり5コースという待機行動。このあたりで客がざわつき始める。  結果、誰も目立ったコース取りをしないまま、それでも全艇スローの123456の進入。  スリットで上瀧が全速のトップS、この勢いなら捲れる、スリットを抜けた瞬間ほとんどの客は歓声をあげた。  彼らの目にはまくる上瀧を張りに行った田中の内側を誰が差すかに興味が移る……はずだった。  2コース上瀧はまくりを打たず、旋回前に艇を外に振って3号艇松井ほか外のまくりをけん制、そのまま田中を差すという戦法を選択していた。  しかしその差しは田中の残した引き波に乗り不発、展開を窺っていた今村と濱野谷が差し損ねた上瀧の内側を差し切った瞬間、ボートピア大郷はため息に包まれていた。 結果 3連単 1-6-5 13670円 2連単 1-6  2810円 決まり手 逃げ 「どかんかい! 上瀧様のお通りぜい」上瀧を応援する勇ましいコピーの横断幕がむなしく揺れていた。

自分が納得できる理由を探す帰り道

 仙台駅に向かう帰りの無料送迎バス(現在廃止)の車内は上瀧のレースの話で持ちきりだった。  もちろん話題は『今日はいくら儲かったか』ではなく、あれだけ前日までインから逃げて勝つと公言していた上瀧が優勝戦ではスタート展示からまったく1コースをとる気配を見せず本番でも2コースに回り、結果6等に沈んだ件だ。  結局、あのレースで上瀧は何がしたかったのだろうか? 田中に優勝を譲らないといけないような理由でもあったのか? それとも優勝戦の売り上げを伸ばすために客を煽っただけなのか? イン逃げしたら死んでしまう病にでもかかっていたのか? さまざまな勝手な憶測が客の口から飛び出す。  もちろん我々は上瀧和則本人ではないので、真意はわかりようがない。  別に正しい理由をつけるつもりなどきっと誰も考えてもいない。  単に自分たちが買って外した舟券と、買えなかった、買わなかった当たり舟券につける自分が納得できる理由を探しているだけにすぎないのだ……。(なお、筆者はこのレースは2連単を買って的中しました)  この連載では今後も「負け」をテーマに、自分の舟券の負けも選手の負けも併せて記憶の中から引きずり出して紹介したい。 ※本文中SGレース等の呼称を平成26年(’14年)以前の話題につき当時の名称にて表記しております ※本文中敬称略
シナリオライター、演出家。親子二代のボートレース江戸川好きが高じて、一時期ボートレース関係のライターなどもしていた。現在絶賛開店休業中のボートレースサイトの扱いを思案中
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