ライフ

ウンコ漏らしは酒飲みの共通体験…なのか?――酔いどれスナック珍怪記

大量放出の悲しい過去を吐露

 その日、イケダツは珍しくへべれけだった。  懇意にしているライターと二人、新宿の安居酒屋で、ガソリンでも入っているのかと疑いたくなるような悪質な酎ハイをしこたま飲んで、その後スナックとキャバクラの中間みたいな変な店で懐かしき灰皿テキーラならぬ、灰皿イエーガーを今まさに飲まされようとしていた。その時から既に腹は雲行きが怪しかった。 「イケダツさんの、ちょっとイイとこ見てみた~い!」  女の子たちからそんな古風なコールをされて、真面目で気前の良い彼は次々にイエーガーを流し込んでいったが、下腹部では雷鳴が鳴り響いている。絶対さっきの安酒のせいだ。普段はどれだけ飲もうと多少眠気が襲う程度だというのに。それとも「ここでは火の通ったつまみしか食べない方がいいですよ」というライターの忠告を無視して変なチャレンジ精神で刺身を食べてしまったせいか。たぶんどっちもだ。今トイレに駆け込むのも恰好が悪い。ぶっちゃけ帰りたい。そもそもなんでイエーガーを飲むノリになったんだかよくわからない。帰ろうかな。  様々な思考が彼の頭を駆け巡っていったが、隣を見ればライターはロリ顔の巨乳にすっかりやられてしまって席を立つ気配がない。それでも気合いで我慢し続けた。幸い家は歩いて帰れる距離だったし、飲み屋のトイレに籠城するよりも、周りを気にせずに一人でがっつり座り込みたかった。  隣に腰掛ける女の子の話も全く耳に入らず、トイレのことしか考えられなくなってきたあたりで、彼はようやく自分から「そろそろ行きますか!」と声を上げた。  店を出ると、「もう一軒行きます?」などと事情を知らぬ呑気なライターの発言をよそに、「僕明日早いんで!」と雑に言い残して早足で帰路についた。  途中の公園に一つ。自宅マンションの手前にもう一つ。  SFアニメで軍用ロボットが地理を空間把握するように、彼の脳内には即座に公衆トイレマップが作成されていった。目的地に向かって最速で走りたいが、走ったら何かが漏れ出てしまいそうなのでセキレイのように小股で超速移動した。 公園の隅でセーブポイントさながらに光を放つトイレに向かって、いちゃつくカップルや酔って暴れている変なオヤジを尻目に一目散に突き進んでいったが、ふと妙なことに気が付いた。入口に何か看板のようなものが立っている。 〈工事中につき、使用できません〉  イケダツは絶望した。同時に尻に少し生温かさを感じた。ちょっと出たかもしれない。しかしこんなところで立ち止まっているわけにはいかない。すぐさま切り替えて次のトイレに向かった。もはや前かがみでしか歩くことができない。  命からがらな気分でマンションの手前まで辿り着くと、自宅の明かりはとうに消えていることなど気にもかけず、さっきの公園よりも清潔めなトイレに駆け込んだ。そこで彼は、またしても妙な貼り紙を見つけてしまう。 〈故障中〉  その瞬間、イケダツの中で何かが弾け飛んだ。  絶望か、諦めか。堰き止められていた濁流の溢れるが如く、とめどなく流れ出た。涙とウンコが。パンツの中だけでとどめることのできなかったそれは、ジーパンの中の素足を伝って靴の中にまで染み込んだが、もはやどうでもよかった。深夜に半べそをかきながら脱糞している姿は成人男性としてどうなのかとか、そんなこともどうでもよかった。  次第にこみあげてくる謎の清々しさを引き連れて、汚物を撒き散らしながらマンションの階段をのぼった。自宅に着いてからの処理が悲惨だったのはいうまでもない。
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常連客が優しい眼になり…
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