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ウンコ漏らしは酒飲みの共通体験…なのか?――酔いどれスナック珍怪記

 彼がそこまで話し終えた時、店内のカウンターに座る常連客たちは皆、何故か優しい眼を携えていた。 「イケダツさん、大変だったんですね」 「わかりますよ」 「イケダツさんでもそんなことってあるんですね」  急に田舎の囲炉裏端のような温かさを帯び始めた店内の雰囲気に、わたしは困惑した。なんなんだ。ウンコを漏らしたことのある人たちの宗教か。それは、まだ経験のないわたしには加わることのできない境地であることは確かだった。  人は、みっともない話でこんなにも温かくなれる。  昼間の会議室や気取ったカフェでは決して生まれることのない連帯感を、ウンコを漏らした話は生み出してしまう。ちょっとした秘密を共有するという感覚なのかもしれない。飲み屋でぐらい下ネタ話そうぜ! そんなサブタイトルを付けたのはわたしが下品な話が好きだからというのも多分にあるが、酒を飲んでいる時くらい、普段表に出さない自分の愚かさを零してみても良いんじゃないかと思うからだ。そうやって人は近しく親しくなっていける。たぶん。  そんなわけで全国の酔っぱらいの皆さん。自分の内に閉じこもってストレスを溜め込んで暴れて迷惑を掛けるとかいう愚かさを披露する前に、ウンコを漏らした話でもしてみたら良いんじゃないでしょうか。きっと心が軽くなれます。そんなことを思っている場末のくたびれた女です。〈イラスト・粒アンコ〉
(おおたにゆきな)福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは @yukina_otani
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