更新日:2023年04月18日 11:05
スポーツ

返還寸前、大出遅れからボートレースの大逆転劇<江戸川乞食のヤラれ日記S>

約6艇身差を一瞬にして縮めた作間のターン

 波水面でのターンマーク旋回はなにが起きるかわからない。1周1M、長岡のまくりに飛びついた小金井が仲良く流れ、スカイツリー観光へ向かう。  それを見越して初動を遅らせていた山口と川尻が落とし気味に差しを2本入れる……。それに続くのが緑色のカポックをまとった作間。いつの間にか最内に切り込んでいた。  この水面で.05のトップスタートを切った山口のアドバンテージがなくなる3番手で1周バックへ向かう。  小金井と長岡のぶっ飛びと、作間の1周1Mのターンを見た客がざわめく。1周バックでアナウンスされる「スタート正常」の声に、さっきまで顔を曇らせて作間の出遅れを望んでいたおっちゃんは「よし、作間はセーフだ。実は俺な、1-3-6のボックスで買ってたんだ、へへへ……」と、もう取った気でいた。  確かに出遅れ返還寸前のドカ遅れから、奇跡に近い先行艇の展開と水面のアヤで確定板を狙える位置につけた作間、こうなればこの6人の中ではいちばん江戸川を走っていて、しかも波水面に強い作間章となれば客の興味はどこまで順位を上げるかにシフトしていた。  そんな客の思惑に応えるかのように作間はターンマークごとに、周回を重ねるごとに順位を上げ、2周1マークでは川尻をさばき、3周1M小金井のターンミスを逃さず、まるで小金井に江戸川の波水面の走り方を見せて教えるようなターンでそのまま1着でゴール。「今の作間の走り……なんだったんだ?」とあっけに取られる客とどことなく上がる拍手。  ボートレースは競艇の時代から変わらず、先行艇が多ければ多いほど着順を上げるのが難しい競走である。  にもかかわらず、最下位からのスタートで道中追い上げ、1着を取るというのは俄に信じられない光景である。 「あーあれだ。いまやってたのって、ボートレースじゃなくてオートレースかもよ?」重ハン(後方)の選手が追い上げて勝つという点では確かにそんな気になってもおかしくない。 <結果> 1着 6作間  ST 0.94 2着 1黄金井 ST 0.18 3着 3山口  ST 0.05 4着 2長岡  ST 0.11 5着 4川尻  ST 0.10 6着 5原田  ST 0.24 2連単 6-1  2430 3連単 6-1-3 17120 「周回短縮レースだったら作間は間に合わなかったな」「江戸川はこういう展開があるからたまらない」「むしろ江戸川はこういう展開があるから、波が出たらおっかなくて買えない」「もう優勝は作間でいいよ(今節の優勝者は濱野谷憲吾だった)」客たちは舟券の当たり外れに関係なく、作間のレースっぷりを口にしていた。  確かに、波水面の江戸川ではスタートで後手を踏んだ選手がうまく波に乗って3連単に絡むケースは珍しいことではない。しかし、出遅れ返還寸前までスタートで後手を踏んだ艇が追い上げたあげくにアタマまで取ってしまうケースは……少なくとも先行艇大キャビからの失速、あるいは先行艇の転覆というような事故レースでもない限り記憶にない。  これを名勝負と見るか、それとも江戸川巧者で波巧者な作間章なのであたりまえなレースだと思うか、それは自由だと思う。  少なくとも、作間のドカ遅れで真っ青になっていた隣のおっちゃんは自分の買い目の中でいちばんの高配当、万舟を無事にゲットできたのだからきっと名勝負だったに違いない。
シナリオライター、演出家。親子二代のボートレース江戸川好きが高じて、一時期ボートレース関係のライターなどもしていた。現在絶賛開店休業中のボートレースサイトの扱いを思案中
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