更新日:2023年04月27日 10:15
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対生物・化学兵器テロの最前線を担う自衛隊病院。医師が着用するマスクも足りていない

生物・化学兵器によるテロが起きたら?

自衛隊

※写真は自衛隊Facebookより

 例えば、国際法で禁じられた「生物兵器」「化学兵器」を持つテロ組織や国家があります。日本で発生したオウム真理教の「地下鉄サリン事件」は世界に注目された化学兵器テロ事件でした。このとき、最初にサリンではないかと診断したのは医官でした。また、「炭疽菌」や「天然痘」などの生物兵器を保持していると言われる北朝鮮は我が国の近くにあります。日本は「生物・化学兵器」と無縁ではありません。  生物兵器(毒性を強化された病原体)に感染したと疑われる患者は隔離が必要です。特に空気感染する感染症、病原体の特性が不明な時点では、患者の隔離に陰圧室が必要です。陰圧室とは、部屋を陰圧にして空気を室外に出さない構造の部屋です。  自衛隊中央病院と防衛医大病院にそれぞれ2部屋が設置されていますが、自衛隊病院が医療の安全保障を担う機関なら、その程度の装備はすべての自衛隊病院に必要だと感じます。今のままでは自衛隊病院は、生物兵器に感染した患者が来院したら、拒否せざるを得ないと思います。しかし、そんな事態となれば、患者は必ず来院します。防衛省の病院ということで期待も大きいでしょう。  同様に放射性物質や化学剤で汚染された患者が来た場合は、まず物理的に水で洗い流す必要があります。汚染物質が付着した状態では治療が不可能だからですが、その場合の排水タンクを備えた温水シャワー施設、すなわち除染設備も自衛隊中央病院にあるだけです。テロは東京だけで起こるわけではないのです。しかし、全国の自衛隊病院にそんなものを準備する発想も予算も我が国の自衛隊にはありません。  自衛隊病院や医官を医療の安全保障の中心に据えるアイデアですが、現状はあまりにも乖離しています。予算不足で簡単なものですら十分な数がないことに呆然とします。一般の薬局にも売っている「N95マスク」は空気感染する麻疹(はしか)、水痘(水疱瘡)、結核をブロックするマスクです。  一般の薬局でも販売されていますが、かなり高価です。私が手に入れたときは1000円近くしました。医官は生物兵器テロなど病原体が不明な場合はこの「N95マスク」を装着することが不可欠です。しかし、十分な数の備蓄はなく、医官が装着する訓練をしていないと聞きます。

隊員の病気予防だけにとどまらない機関に!

 自衛隊病院は我が国に蔓延している麻疹、水痘や海外派遣時の現地対応のワクチン接種はしっかりやっているようです。災害派遣時には泥水のなかで救助活動をするため、破傷風のワクチンも10年に一度接種を行っているようです。基本的な隊員の予防対策だけではもったいないと思います。防衛医大・自衛隊病院は生物・化学テロ対策も含めた大きな医療の安全保障を最前線で引っ張っていく機関となるべきです。  しかし、防衛医大、自衛隊病院は営利目的の機関ではないため、予算がカツカツでは何もできません。せっかく優秀な医官を集めていてもこれでは宝の持ち腐れではないでしょうか? さまざまな病気や医療現場を襲う脅威から日本人の健康を守る機関に変貌を遂げていただきたいと思います。
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot


自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う

日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる……

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自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う

日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる……

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