更新日:2019年11月21日 19:30
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京セラを“60年間黒字”に導いた稲盛和夫氏のすごすぎる経営手法を5分で解説/馬渕磨理子

社員の付加価値が一発でわかる公式

 京セラの好調を支えるもう一つの特徴が、「任せる経営」。特に、同社はシンプルで理解しやすい管理会計を導入しています。京セラ稲盛会長が掲げるアメーバ経営では、「時間当たり採算」と呼ばれる計算方法が利用されています。アメーバとは、社内にある独立チームのようなもの。京セラでは、アメーバの一人のメンバーが会社に対して一時間でどれくらいの付加価値をもたらしているかがすぐにわかるようになっています。  その計算方法を簡単に説明します。  まず、アメーバごとに、入ったお金(社外への出荷と社内のアメーバへの売上)から、出ていったお金(他のアメーバからの社内購入と、人件費以外の自アメーバで発生するコスト)を引きます。これを「差引売上」と呼びます。  次に、差引売上をアメーバメンバーの総労働時間で割ることで、「時間当たり採算」が算出されます。この値を見れば、各アメーバのメンバーの付加価値がひと目でわかるのです。もし、アメーバの「時間当たり採算」が全社の平均賃率を上回っていれば、会社の利益に貢献しているし、下回っていれば自分達の食い扶持すら稼げず、他のアメーバに食べさせてもらっていると解釈できます。  この「時間当たり採算」の導入によって、現場レベルで「どうすれば経営をしやすくなるか」「どうすればメンバーを引っ張っていけるのか」ということを真剣に考えるようになるのです。「任せる経営」を実行できるように、客観的な指標を出しているんですね。

「現場の声」を本当に吸い上げるシステム

 マネジメントを語る際に「現場の声を吸い上げよう」とはよく言われている文言です。とはいえ、これを確実に継続して実行できている組織はそう多くないはずですが、京セラは違います。  京セラでは、現場から離れたところにいるトップマネジメントが、独自に方策を決定するのではなく、現場からの情報収集に加えて、現場との対話を通して上手にマネジメント・コントロールできているのです。その肝となっているのが、先述した「時間当たり採算」なのです。  現場の社員がどれだけの付加価値を生み出しているのかわからなければ、客観的な議論はできません。京セラは、その明確な指標を持っていることが最大の強みなのです。想定していなかった環境変化の兆候は、最初に現場に現れます。それを、臨機応変にトップマネジメントが拾いあげることができる体制になっているのです。  話をまとめます。  アメーバ経営の本質は、各セグメントが独立しており、どこかがどこかに依存しすぎていないことに加え、各アメーバの構成員がどれだけ付加価値を出せているのかを客観的に計測できていることにあるのです。これによって、現場の社員とマネージャーが対等に議論でき、より売上を増やすにはどうすべきかをアウトプットできるのです。経営者の資質のみに着目するのでもなく、PLとBSという無機質なグラフだけとにらめっこするのでもなく、その両者を観察することで「気になる企業の未来」はクリアになっていくのです。 参考文献:三 矢裕『学習院大学 経済論集』第34巻 第3,4合併号(1997年12月)任せる経営のためのマネジメント・コントロール一京セラ・アメーバ経営一
経済アナリスト/一般社団法人 日本金融経済研究所・代表理事。(株)フィスコのシニアアナリストとして日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでベンチャー業界のアナリスト業務を担う。著書『5万円からでも始められる 黒字転換2倍株で勝つ投資術』Twitter@marikomabuchi
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