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JALの実力はホンモノか?破たんから10年、財務諸表には怪しい影…

筆者近影

「飛行機は、JAL派?ANA派?」 「わたしはANA派。クレジットカードがANAマイルのほうが貯まりやすいから。ソラチカカード使ってるの」 「俺はJAL派。キャビンアテンダントの制服が気に入ってるんだよね」 「俺もJAL派。classJのシートが福岡出張のとき疲れなくて好きなんだよね。ちょっと払うだけで乗れるし」 「私はANA派。旦那の実家が富山で、富山はANAしかないから」  そんな「ANAとJAL、どっち派?」という、永遠に答えの出ない議論が日本人の間で数十年なされてきたことは想像に難くありません。では、企業としての両社にはどんな特徴があるのでしょうか?  どちらに将来性があるのか? 一度破綻したJALは大丈夫なのか?  今回は、そんな企業としての「航空会社のこれから」について財務分析を通して解説します。旅に誘うパイロットは、私、馬渕磨理子。スマホで気軽に読める「航空業界のこれから」の旅にご案内します。  フライト時間は、約3分間です。シートベルトをお締めになって、お待ち下さい。

お金を持ってるのは、意外にもJAL(阿部寛さんのほう)

 2010年2月、経営破綻により上場廃止となったものの、約3年後の2012年9月には再上場を果たした、JAL。企業の安全性を測る自己資本比率を見てみましょう。

2020年2月15日修正

 この自己資本率、JALの経営破綻寸前は数%でしたが、2019年3月期時点では57.4%まで上がっています。https://web.fisco.jp/platform/companies/0920100/cashflow  会社更生法の適用を受けて、公的資金の注入や銀行からの債務免除のおかげで純資産に厚みが出ている恩恵を受けていると言えます。  一方、羽田第二ターミナルのANAの自己資本比率は40.9%です。https://web.fisco.jp/platform/companies/0920200/cashflow また、現金預金もJALが4620億円、ANAが683億円と大きな差があることがわかります。  今では、阿部寛さんを広告に起用しているJALのほうが現金を持っているのです。  これは、2010年の会社更生法の申請後、JALが債務免除を受けていることも大きいでしょう。JALは、銀行からの借入金約5000億円を「返さなくていいよ」と認められたのです。結果、有利子負債にも両社で差が生まれています。  2019年3月期の有利子負債は、JALが約1400億円に対し、ANAが約8000億円。  B/Sだけを見るとJALはANAよりも自己資本比率が分厚く、現金預金も保有しているため、安全性の高い企業だと思うでしょう。しかし、そうとは限りません。それは、P/Lに表れています。

「稼ぐ力」はANAの勝ち(綾瀬はるかさんのほう)

 両社の「当期純利益率」を見てみましょう。これ、簡単に言えば会社の「総合的な稼ぐ力」を表したものです。当期の売上のうち、何パーセントが利益になったのかを示す財務指標のことです。計算式は以下。 【当期純利益÷売上高×100=当期純利益率(%)】  一般的に、企業における当期純利益率は、3~4%が平均的です。では、航空会社はどうでしょうか。両社の当期純利益率率を比べてみると…。  JALが10%、ANAが5%と2倍の差が開いています(2019年3月期時点)。ここでも嵐を広告に起用しているJALの勝利です。2019年以前の数値を見ても、JALがANAを上回っています。しかし、JALが圧勝しているわけではありません。  JALは、今年1月31日の決算で、国際旅客需要および国際貨物需要が想定を下回る見込みとして業績の下方修正を発表。38.3%の減益見通しとなっています。  JALは「思ったより、儲からなかった」のです。  結果、2020年度の当期純利益率予想は、JALが6%、ANAが4%となる見込みで、綾瀬はるかさんが広告に起用されているANAが逆転しそうなのです。売上高と営業利益をみても、JALの「稼ぐ力」が弱まっていることがわかります。 【過去2年のJALの売上高】 2019年3月期…1兆4872億円 2020年3月期…1兆4860億円(予想) 【過去2年のJALの営業利益】 2019年3月期…1761億円 2020年3月期…1400億円(予想)  JALの売上高は昨年とほぼ同じ。しかし、営業利益は約300億円ダウンしています。さらに販管費の推移も見てみましょう。  JALは、経営再建のなかで約1万6000人もの大規模リストラと給与引き下げを行い、販管費を抑えていた背景があります。  この販管費の削減により、売上総利益や営業利益が増加。財務状況を回復できました。しかし、直近の販管費を見ると、少しマズい状況が起きています。JALとANAの販管費を見てみましょう。 【JAL:過去3年の販管費】 2017年…1916億円 2018年…2150億円(+234億円) 2019年…2358億円(+208億円) 【ANA:過去3年の販管費】 2017年…2948億円 2018年…3254億円(+306億円) 2019年…3334億円(+80億円)  JALの販管費が増えている一方、ANAは抑えられていると言えるでしょう。つまり、ANAのほうがビジネスの上では状況はよいと言えます。
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JALの今後を占う「フィロソフィ教育」とは?
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