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イギリスとEU「合意なき離脱」リスクの恐怖

ボリス政権が進める産業振興がFTA交渉のネックに

 背景にあるのは、これから直面する膨大な政策課題だ。在英ジャーナリストの木村正人氏が話す。 「ブレグジットは対EU問題ではなく、国内問題。離脱によって経済が傾くようなら、ボリス政権は終わりです。だから、1月31日には閣議をロンドンでなく、わざわざイングランド北東部のサンダーランドで開きました。  ここは日産の工場があることで知られる工業都市で、離脱支持派の牙城。サッチャー保守党政権時代の新自由主義政策によって、衰退していった地域でもあります。ロンドンからドーバー海峡を挟んでパリまで2時間で行けるのに、サンダーランドまでは4時間もかかる。  おまけに、このエリアで列車を運行するノーザン社はストが頻発してダイヤの乱れが常態化し、週末は運休するというありさまです。半ば陸の孤島と化した都市で閣議を開くことで、ボリスは財政出動による産業振興と地域格差の是正に努めるというメッセージを発信したわけです」 イギリスとEU「合意なき離脱」リスクの恐怖 ただし、そうした課題を解決するためのハードルは高い。 「年末までの離脱移行期間を経て、英国は正式にEUから離脱する予定ですが、EU側とのFTA(自由貿易協定)交渉が難航するのは必至。EUは特定の産業や地域への政府援助は公正な取引を阻害するとして認めていないからです。  ボリスの掲げる産業振興策は、EU域内の自由貿易のルールに反する。かといって、長年EUの関税同盟・単一市場に浸かっていた英国には、通商交渉の専門家がいません。  これまでにEUが各国とのFTA交渉に費やした期間が平均3~5年であることを考えると、年末までの11か月足らずの交渉期間で合意を取り付けるのは、まず不可能でしょう」(木村氏)  そのため、お祭り騒ぎとは対照的に、年末の正式離脱を悲観的に見る人が増えているという。 「EUとの主な交渉課題はFTAに加えて、EU市場へのアクセスを可能にする英国の金融規制と漁業権の問題、人の移動の自由に関するものの4つ。EU側の漁業関係者による英国海域での違法操業が常態化していることから、漁獲割り当ての扱いなどで英国側が譲歩すれば、その他の課題に関してはEUの譲歩を引き出せるという声も上がっていますが、虫のよすぎる見立てなのは明らか。人の移動に関しては、移民は受け入れないが優秀な技術者はウェルカムという英国の姿勢に、今なお反発を強めているEU加盟国は数多い。  一方で、英国にはオックスフォードやケンブリッジなどのブランドを求めて、いくらでも人材が流入してくるうえ、世界2位の金融都市シティを有するという自負もある。非常にプライドが高いので、ボリスが今後のEUとの交渉で大幅に譲歩することは考えられません。それだけに、FTAなどに関するEUとの交渉は決裂する可能性が高い。実際、直近の世論調査でも『合意なき離脱を覚悟している』という声が多数を占めています」(松崎氏)  2月1日、茂木敏充外相はブレグジットに触れ、「合意なき離脱が回避されたことは評価する」との談話を発表したが、実は今なお「合意なし」のリスクが燻っているのだ。  仮に決裂すれば、「’21年1月1日から、商品価格が跳ね上がり、物流に支障をきたし、景気が急激に冷え込む可能性が高い」(同)とか。ボリス・ジョンソン首相の言葉どおり、ブレグジットの恐怖は始まったばかりなのかもしれない……。 <取材・文/週刊SPA!編集部 写真/ロイター/アフロ> ※週刊SPA!2月4日発売号より
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週刊SPA!2/11・18合併号(2/4発売)

表紙の人/ 生田斗真

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